ワシントン条約やブリーディングローンとは?動物の取引を学ぼう

ワシントン条約とハンティングビジネス

動物の記事を読んでいるとよく出てくるワシントン条約、ブリーディングローンという動物の取引に関する言葉。

動物や動物園を理解するうえで重要なワードです。

ワシントン条約とブリーディングローンを中心に動物の取引について学び、動物保全の大切さを考えましょう。

絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約

正式名称は非常に長いですが、文字通り、絶滅に瀕した動植物の取引に関する国際間の約束事です。過度な国際取引の抑制を目的としています。

Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Floraの頭文字を取って、CITESと略されています。

日本人にとって最も一般的なワシントン条約という呼び名は、ワシントンD.C.で採択されたことが由来です。

IUCNレッドリストにおいて絶滅の危険性があると査定されている動物のほとんどは、ワシントン条約により取引が規制されています。

動物の生死にかかわらず、はく製や毛皮、角なども規制の対象となります。

ワシントン条約の締約国会議は2~3年に1回行われています。その都度、規則や附属書の改正が検討されています。

ワシントン条約附属書

動植物は付属書Ⅰ~Ⅲに分類され、それぞれ取引条件が異なります。

Ⅰ(現在、絶滅のおそれのある種)
  • 学術研究を目的とした取引のみ可能
  • ゴリラ、ジャイアントパンダ、ゾウ、サイ、ライオン、トラ、オランウータン、チーターなど約1000種類
  • 輸出入国の許可書が必要
Ⅱ(将来、絶滅のおそれのある種)
  • 商業目的の取引が可能
  • カバ、アメリカバイソン、ワシ、ホッキョクグマ、アメリカグマ、マントヒヒ、ハシビロコウ、サメなど約34000種類
  • 輸出国の許可書が必要
Ⅲ(国際協力が必要な種)
  • 商業目的の取引が可能
  • アジアスイギュウ(ネパール)、シマハイエナ(パキスタン)、セイウチ(カナダ)、ビントロング(インド)など約200種類
  • 輸出国の許可書が必要
  • 掲載国が原産でない場合は、原産地証明書が必要

動物園にいる多くの動物たちは、ワシントン条約で保護されています。

附属書Ⅰの動物

附属書Ⅰに掲載された動植物は、絶滅のおそれが高い種。学術研究を目的とした取引のみが可能です。言い換えると、商業目的の取引は禁止されています。

ゴリラやパンダ、ライオン、トラなど動物園で人気のある動物たちの多くは、附属書Ⅰに定められています。

アフリカンサファリ ライオン

附属書Ⅰの動植物の商業的な輸出入はできません。

例外として、ワシントン条約の登録施設で人工繁殖させた動物は、商業取引が認められています。

人工繁殖によって生まれた希少動物たちは、日本の動物園には手が出ないような高値で取引されています。

しかし、「新しい仲間がやって来ました」という動物園のお知らせを見聞きすることがあるでしょう。

動物を展示してお金をもらっているから、商業にならないの?と疑問に思いませんか?

動物園には、動物の展示以外に大きな仕事があります。それは、動物を繁殖させることです。

ブリーディングローン

Breed(繁殖)のためのLoan(賃借)。動物園同士で動物を貸し借りすることをブリーディングローンといいます。

繁殖を目的とするブリーディングローンは動物園同士の共同保護にあたります。そのため、商業取引が禁止されている附属書Ⅰの動物も対象となります。

賃貸契約のため、動物の所有権は元の動物園のまま。つまり、ブリーディングローンでやって来た動物は、いずれもとの動物園へと帰って行きます。

ブリーディングローンにより誕生した子どもの所有権は、契約締結の際に動物園間で取り決めを行っています。

ブリーディングローンのメリット

1. 支出を抑える

ブリーディングローンは、期限付きのレンタル料もしくは無償で動物を導入できます。

動物園にとって最大の出費のひとつは、動物の購入費。絶滅危惧種等の動物は1頭購入するよりレンタル料の方が安価のため、支出を減らすことができます。

国内の施設間では無償の貸し借りが多いようです。海外から借りる場合は、ジャイアントパンダのように有償のケースが見受けられます。

2. 新しい血統

希少な動物であればあるほど、ひとつの動物園に一組のペアしかいません。

めでたく繁殖に成功しても、同じ両親の子どもばかりが誕生します。近親交配の危険を生むばかりでなく、同じ病気にかかりやすいなどのリスクを生じます。

動物園はブリーディングローンにより新しい血統を取り入れ、新しい家族の誕生を目指します。

3. 繁殖機会を与える

動物によっては単独行動を好み、メスもしくはオスだけが飼育されている場合があります。また、パートナーと別れてしまって単独となった動物もいるでしょう。

野生であれば繁殖シーズンに相手を求めて旅に出ます。一方、飼育下では繁殖のチャンスがないまま時が過ぎていきます。

そこで、繁殖可能な動物同士を引き合わせるように、動物園間で話し合いが行われます。子孫を残せない動物を減らす取り組みです。

ブリーディングローンのデメリット

ブリーディングローンの活用は、動物園経営や種の保存など動物の未来に関わる重要な活動。

一方で、移動中に死亡したり、移動先の環境や相手が合わず衰弱したり、動物の負担があることも確かです。

取り残された個体がパートナーを失った影響で死亡した、と思われるケースもあります。

移動に耐えられるか、環境の変化についていけるかなどの判断は、動物園スタッフにかかっています。予測できない事態の対処法が、今後のブリーディングローンの課題となっています。

国内のブリーディングローン例

ジャイアントパンダ

世界中のジャイアントパンダは、中国からやって来ます。日本で飼育されているすべてのパンダの所有権は、中国のパンダ繁育研究基地にあります。

和歌山県のアドベンチャーワールドは世界で初めてパンダのブリーディングローンを行い、パンダ繁殖に貢献していることで有名です。これまでに、10頭以上のパンダが生まれています。

日本で生まれたパンダの赤ちゃんは、中国に返す約束をしています。そのため、昨年誕生した上野動物園のシャンシャンも数年後には、中国に帰国します。

上野動物園 パンダの赤ちゃん シャンシャン
シャンシャン(2018年4月撮影)

ゴリラ

上野動物園と東山動植物園のニシゴリラは、オーストラリアのタロンガ動物園からブリーディングローンにより来日しました。

2頭とも群れを築くことに成功。国内のゴリラ個体数増加の大きな要となっています。

東山動植物園 キヨマサとアニー
キヨマサとアニー(2015年9月撮影)

上野動物園の母親であるモモコは、千葉市動物公園から借りている個体です。

モモコのように、国内の動物園同士でもブリーディングローンは頻繁に行われています。

動物園の繁殖活動や研究が、将来の動物の絶滅を防ぐ鍵となります。

ハンティングビジネス

動物を保護する活動が盛んに行われる中、近年、動物狩りに関連したビジネスが成長しています。

生活のためでない娯楽の狩猟、いわゆるスポーツハンティングです。

射殺した動物をはく製や毛皮などに加工して狩りの記念品とすることから、トロフィーハンティングとも呼ばれています。

なかでも南アフリカで流行しているのがキャンド・ハンティング。

キャンド・ハンティング

キャンド・ハンティングとは、ライオンやキリンなどの大型動物を養殖し、敷地内で狩猟すること。

南アフリカでは、動物の所有権はその土地の所有者に属します。国立公園や保護区での狩りは禁止されていますが、私有地での狩りに違法性はありません。

狩猟許可を受ければ、敷地内の野生生物を自由に狩ることができます。

なぜハンディングビジネスが流行したのか?

答えは簡単。畜産よりキャンド・ハンティングの方が収益性が高いからです。

やせたアフリカの大地では、食用の動物を育てることは容易ではありません。一方、もともとアフリカに生息している動物は、問題なく育ちます。

さらに、狩猟用の大型動物は1頭当たりの取引価格が高く設定されています。

以上のことから、アフリカにはキャンド・ハンティングを行う施設が200か所以上あると言われています。

トロフィーとして育てられた動物は、注文が入ったら柵で囲われた広大な敷地に放されます。動物たちは缶詰にされた状態(canned)。

そして、ハンターは大金を払い、狩りを楽しむのです。

ハンティングビジネス賛成の声

殺されるために育てられるという動物たち。人間の身勝手な行動に憤りを感じます。

当然、世界中からトロフィーハンティングへの非難が集まっています。

一方で、ハンティングビジネスを必要とする意見が存在するのも事実。その一部を紹介します。

1. 密猟抑制

合法的に狩猟を楽しむことにより、野生動物の密猟を防ぐことができます。

すべての狩猟を規制したところで、ハンターがいなくなるわけではありません。反対に、密猟が増加することも懸念されています。

2. 問題のある個体の駆除

健康な動物を殺したり、繁殖を妨げたり、異常行動を起こしている個体を駆除できます。

問題視されている個体を保護区から私有地へおびき寄せ、射殺します。私有地の動物は所有者のものとなるため、殺しても違法ではありません。

実際は保護区内であっても、問題のある個体はレンジャーによって射殺されています。

3. 収入源

ハンティングビジネスは地元の絶大な資金源となります。

経済状況が厳しい南アフリカでは、狩猟による収益の一部が野生生物の保護に充てられています。

すなわち、狩猟は動物のためとも言えるのです。

また、ハンティングビジネスは案内人、運転手、護衛など多くの雇用を生みます。無情だと感じながらも、ハンティング用の動物(トロフィー)の養殖に携わっている人がいます。

ハンティングビジネスの規制が強まると、職を失う人が増えると考えられています。

ところが、ガイドやハンターを装った密猟業者も存在します。一見、遊びに来たようにしか思えないグループが、プロの集団かもしれません。

ハンティングが流行ることにより、密猟パトロールがさらに困難となっています。

一概に良い悪いとは判断することが難しい、ハンティングビジネス。世界的には反発が多く、規制強化の傾向にあります。

動物園の繁殖に関する問題

過度な繁殖

サファリパークなどで、ライオンやトラの赤ちゃんとふれあえるイベントは大人気企画。多くの人が来園し、大きな収益を生みます。

しかし、猛獣は数か月で近寄れなくなります。

動物園側は、イベント開催のために繁殖を頻繁に行っています。施設によっては年中行事のように子どもが誕生します。

小さなうちは良いですが、動物はあっという間に成長します。さらに動物の高齢化も相まって、獣舎はどんどん動物でいっぱいになっていきます。

精神的にも肉体的にも決して良い環境とは言えません。

近親交配

ホワイトライオンやホワイトタイガーは美しく珍しい存在。多くの来園者を惹きつける目玉動物のひとつです。

平川動物園 ホワイトタイガー

動物園によっては、ホワイトライオンやホワイトタイガーを絶やさないために近親交配をさせています。

その結果、病気や奇形を持って生まれ、苦しい思いをしている個体もいます。

日本にトロフィー・ハンティングは普及していませんが。ヒトのエゴが動物を苦しめていることは確かです。

動物園自体の存在を否定する意見は数多く存在します。

動物の精神状態や生活環境を改善するために、動物園にとってエンリッチメントは必須要件です。

野生生物の密輸入

ワシントン条約の発効により、野生生物取引の際には政府の許可が必要となりました。乱獲や密猟、不必要な取引などが抑制され、野生生物の保護につながります。

需要と密猟

希少動物は非常に高値で取引されているため、金銭目当てで違法行為を行う者が後を絶ちません。密猟した動物から加工品をつくり密輸する者もいます。

日本と中国間では象牙の違法取引が盛んに行われており、近年大きな問題となっています。

また、ペット用として密輸される動物もいます。飼育が難しくなった野生生物は、捨てられたり殺されたりと、不幸な運命を辿ることが多いようです。

生息地の減少に加え、ペット用の密猟が増加し、野生のチーターは激減しました。

アフリカンサファリ チーター

10年間に1000頭以上の赤ちゃんチーターが密輸され、その多くは輸送中に死亡しているそうです。

わが国でも、カワウソや小型サルなど珍しい動物を飼う人が増えてきています。

世の中のペット人気が動物を死亡させているという事実に、目を向ける必要があります。

手に入らないからこそ手に入れたいというヒトの心理。需要があるから、密猟はなくならないのです。


食料や装飾、ペットなどの目的で捕獲または殺害されてきた野生生物。かけがえのない存在である数多くの生き物が、わたしたちヒトの活動により絶滅の危機に瀕しています。

そして、現在も絶滅のおそれのある動植物が密猟され、世界中で輸出入されています。

今後も密猟者とワシントン条約事務局の戦いは続きます。

動物に関する取引を学び、動物保護や繁殖の重要性を理解していただければ幸いです。

以上、ワシントン条約のお話でした。

【参考】

経済産業省 ワシントン条約

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です