ワシントン条約と動物園|なぜ密猟が絶えないのか考えてみよう
ワシントン条約の意義・ランク(附属書)と動物園の取引|密猟・密輸の実態がわかる記事
動物の記事を見るとしばしば出てくる「ワシントン条約」という言葉。
なんとなく読みすごしていませんか?
ワシントン条約は動物の取引を規制する条約。ということはよく知られていますが、意外と規制内容は知られていません。
今回のzoo zoo diaryはワシントン条約の意義やランク(附属書)をわかりやすく解説します。
ワシントン条約が生まれた背景を知り、なぜ密猟や密輸入が絶えないのか考えてみましょう!
ワシントン条約とは
絶滅危惧種の国際取引を規制します
ワシントン条約の正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」
非常に長いですが、文字どおり絶滅に瀕した動植物の取引に関する国際間の約束事です。
Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Floraの頭文字から「CITES」と略されます。
日本人にとって一般的な「ワシントン条約」という呼び名は1973年にアメリカ・ワシントンD.C.で採択されたことが由来です。
なぜワシントン条約ができたの?
ワシントン条約が発効される前までは、無秩序に動植物の取引がおこなわれていました。
動植物がどんどん減っていたから
牙や角、肉、毛皮、飼育などを目的にたくさんの動物たちが殺されたり、捕らわれたりして、世界各国におくられていました。
むかしの動物園にいた動物のおおくは野生由来でした。もしかしたら親が殺されヒトに捕まってしまった幼獣だったのかもしれません。
動物の未来を考えずに狩猟しつづけた結果、あっという間に野生動物の数が減りました。
また、木材や紙をつくるために森林が伐採され、植物の数もへっています。さらに、地球温暖化により自然環境は悪路を進んでいます。
このまま動植物をヒトが自由に利用していたら、絶滅種の増加は明らかです。
過剰な狩猟・売買をとめるため
そこで、輸出入に関する制限や許可書の提出をもうけ、過剰な動植物の取引を制限するワシントン条約が誕生しました。
密猟を防ぐために、動物の生死にかかわらずはく製や毛皮、角なども規制の対象となります。
野生生物を評価するIUCNレッドリストにおいて、絶滅のおそれがある動植物はおよそ4万種。その多くがワシントン条約の規制をうけています。
ワシントン条約の締約国会議は2~3年に1回行われています。その都度、規則や附属書の改正が検討されています。
CITES 附属書|3つのカテゴリー
動植物は附属書Ⅰ~Ⅲに分類され、それぞれ取引条件が異なります。
動物園にいる動物たちの大半はワシントン条約附属書に掲載されています。
Ⅰ(現在 絶滅のおそれがある種)
- 学術研究目的の取引のみ可能
- 輸出入国の許可書が必要
- ゴリラ、ジャイアントパンダ、サイ、トラ、チーター、キツネザルなど約1000種
Ⅱ(将来 絶滅のおそれがある種)
- 商業目的の取引が可能
- 輸出国の許可書が必要
- ライオン、カバ、キリン、ホッキョクグマ、マントヒヒなど約34000万種
Ⅲ(国際協力が必要な種)
- 商業目的の取引が可能
- 輸出国の許可書が必要
- 掲載国が原産でない場合は原産地証明書が必要
- アジアスイギュウ(ネパール)、シマハイエナ(パキスタン)、セイウチ(カナダ)、ビントロング(インド)など約200種
動物園には輸出入できない動物だらけ
ワシントン条約附属書Ⅰに掲載された動植物は、いま現在絶滅のおそれが高い種。
学術研究を目的とした取引のみが可能です。つまり、商業目的の取引は禁止されています。
動物園で目玉となるような動物たち、ゴリラやパンダ、トラ、サイ等あげればきりがないほど多くの種が附属書Ⅰに定められています。
附属書Ⅰの動植物の商業的な輸出入はできません。
例外として、ワシントン条約の登録施設で繁殖させた動物は商業取引が認められています。
なぜ絶滅危惧種が日本にいるの?
では、いまなお絶滅の危機にある希少動物が日本の動物園で飼育されているのはなぜでしょうか。
野生から連れてきたから
ワシントン条約ができる前は、野生動物の取引は頻繁におこなわれていました。
生息地で捕らえた動物を売買することがふつうだった時代。成獣を殺して幼獣をつかまえる事象が横行していました。
日本の動物園にも動物商をとおしてたくさんの幼い野生動物が来日。
かれらが運よく繁殖したら、野生由来の血統が飼育下で生きつづけることになります。
もし亡くなったらまた新たな個体を購入すればよい、という安易な考えで動物園は動物を飼育しつづけていました。
もちろんワシントン条約施行後は、絶滅危惧動物をかんたんに取引することはできません。
そのため現代の動物園は飼育動物を維持するべく繁殖に力をいれています。
しかしながら、いまでも「海外から新しい仲間がやってきました」という動物園のおしらせを見聞きすることがあるでしょう。
そのなかにはゾウやサイなどワシントン条約(附属書Ⅰ)で輸出入が禁止されている動物もいます。
動物園は動物を展示してお金をもらっているからワシントン条約に反するのでは?と思う方がいるかもしれません。
認められた繁殖施設から買ってるから
絶滅危惧種を合法で手にいれるもっとも単純な方法は繁殖施設から購入すること。
これは、ただの繁殖施設ではなくワシントン条約対象外となる登録をしている繁殖施設です。
南アフリカにはたくさんの繁殖施設があります。
そのため、日本にやってくるシロサイやヒョウなどは南アフリカで生まれた個体です。
難点は費用。施設で生まれた希少動物たちは日本の動物園には手が出ないような高値で取引されています。
最近はクラウドファンディングにて動物購入費をあつめる動物園がふえています。
動物園は教育や研究をおこなう施設だから
実は動物園は「動物を見せる」単なる娯楽施設ではありません。
どこにどんな動物がいて、自然界でどんな役割をして、いまどんな状況にあるのか等「動物と自然環境を教える」教育の場です。
さらに「種の保全」つまり動物を絶滅から守るという任務があります。
現に野生絶滅のシフゾウやシロオリックスが飼育下から生息地におくられています。動物園が繁殖をおおきな目標にかかげている理由です。
また、生態がわからない野生動物の研究や動物福祉向上の活動等をおこなっています。
このような動物園の「見せる」以外の役割「教育・繁殖・研究」のためなら輸出入がみとめられるのです。
展示ではなく「繁殖」を目的としているから
近年は、希少動物について世界中の個体情報を把握する血統管理がおこなわれています。
近親交配や亜種間交雑をさけ、健康かつ純粋な「種」を保つためです。
ニシローランドゴリラ、ユキヒョウ、ホッキョクグマ等は国内外の繁殖計画にそって移動がおこなわれています。
施設のあいだで繁殖を目的とした貸借契約(ブリーディングローン)をむすぶことが一般的です。
野生生物の密猟と密輸
ワシントン条約の発効により、野生生物取引の際には政府の許可が必要となりました。
乱獲や不必要な取引等ができなくなることは、野生生物の保護につながっています。
しかしながら、現在も密猟や違法取引はなくなっていません。
なぜ密猟や違法取引があるの?
とても悲しい密猟や違法取引。その背景は大きく2つにわけられます。
食べるものがないほど苦しい生活だから(生息地住民)
世の中には農作物が育たなかったり災害や戦争により食物が不足している地域がたくさんあります。
そのほとんどが自然豊かな発展途上国。野生動物がたくさんすむ森や草原があります。
他国はおろか地元でも食料を買うことができないため、ブッシュミート(野生生物の肉)を栄養源としている人々がいます。
また、仕事がないために収入源として密猟をおこない、肉や加工品を売る人々もいます。
たくさんお金がかせげるから(密猟組織)
近年はハイテク化、武装化した密猟組織が動物たちの暮らしを破壊しています。
おおくは資金が潤沢な国外の組織。
国や地域により守られている希少動物(その体の一部)は合法では手に入りません。高値で闇取引をおこなう密猟組織はおおきな利益を得ています。
一方で生活のために密猟組織に案内人として雇われている地元住民がいることも事実。
もし案内人がいなければ密猟は成り立たないかもしれません。
そのため、仕事をあっせんすることで密猟に加担する地元住民をへらそうと尽力する保全団体もいます。
密猟された動物たちのゆくえ
- 象牙や犀角など医薬品として
- 象皮や毛皮など装飾品として
- 生体をペットとして
体の一部をとるために動物たちは殺されています
むかしから医薬品扱いされている象牙や犀角。科学的な根拠はまったくない、ただの迷信です。
さらに牙や角、皮などは装飾品として根強い人気があります。
とくに日本と中国間では象牙の違法取引が盛んにおこなわれています。富裕層のおおい中国へ、日本人が輸出しているのです。
たとえ体の一部であっても絶滅危惧動物を輸出入することは禁止されています。
牙や角をとられ皮をはがされて死んでいった動物を見ても「欲しい」と思うヒトがいることがざんねんでなりません。
生きていても幸せにはなれません
また、生きたままペット用として密輸される動物もいます。
子どもの愛らしさや成獣の美しさから、ライオンやトラなどの大型ネコ科動物はとくに人気があります。
チーターの赤ちゃんは10年間に1000頭以上密輸され、その多くは輸送中に死亡しているといわれています。
わが国でもカワウソや小型サルなどめずらしい動物を飼うヒトが増えてきています。
この需要を商売のチャンスとして、彼らの出生をごまかし不法に売買している業者もあります。
専門家である動物園ですら野生環境を再現することや飼育をつづけることに苦労しています。
まして一般の家庭で動物の生態にならった環境をととのえることができるでしょうか?
動物病院には間違った飼育環境のため、怪我をしたり病気になったりする動物がたくさん持ち込まれています。
世の中のペット人気が動物を死亡させているという事実に目を向ける必要があります。
牙や角であれ生体であれ、需要があるから密猟はなくならないのです。
密猟をふせぐために活動する団体はたくさんあります。賛同した方はぜひご支援ください。
[広告]不要なものは買わないことが一番。必需品は売上の一部が寄付されるような商品を選ぶことで、自然や動物またはヒトをまもる活動につなげることができます。
ワシントン条約【まとめ】
- 1973年アメリカ・ワイントンD.C.で採択
- 絶滅危惧種の国際取引に関する条約
- 附属書Ⅰ~Ⅲに分類
- 生体だけでなく毛皮、角、牙なども対象
- 動物園への輸入
- 繁殖施設と取引(CITES対象外)
- 教育や繁殖、研究を目的とした取引(CITES例外)
- 購入だけでなく賃借(ブリーディングローン)動物交換 譲渡の場合がある
食料や装飾、ペットなどの目的で、捕獲または殺害されてきた野生生物。ワシントン条約がなければ、とっくに絶滅している種もいることでしょう。
しかし、現在でも密猟や密輸により不運な人生をあゆむ動物がいるのは事実です。
野生動物の装飾品やペット化など「欲しがるヒトがいる」から密猟や密貿易はなくなりません。
ワシントン条約の背景や密猟の原因を知り、動物や自然について考えていただければ幸いです。
以上、ワシントン条約のお話でした。
【参考】
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