絶滅危惧種とは?レッドリスト【絶滅のおそれのある動植物一覧】の解説
動物に関する記事や動物園の案内板等でしばしば見かける「絶滅危惧種」や「レッドリスト」という言葉。
なんとなく読み過ごしている方が多いのではないでしょうか?
絶滅危惧種とは絶滅のおそれがあると評価された動物や植物等をさします。そして、その一覧をレッドリストと呼びます。
レッドリスはざまざまな機関から発表され、ひとつではありません。それゆえ、いくつもの定義や分類が存在します。
今回のzoo zoo diaryは動物の豆知識とははなれ動物用語解説!世界と日本のレッドリストを紹介します。
動物の大切さや動物園の存在について改めて考えてみましょう!
IUCNレッドリスト|国際自然保護連合
IUCNレッドリストとは国際自然保護連合【 International Union for Conservation of Nature and Natural Resources, IUCN】が作成した、絶滅のおそれのある動植物の一覧です。
世界中の専門家の調査結果に基づき、植物や菌を含む野生の生物1種ごとの絶滅危機の程度を決めます。IUCNレッドリストは、1年に2、3回更新されます。
IUCNは1964年に設立。1966年に初めてIUCNレッドリストが発行されて以来、最も権威のあるレッドリストです。
2021年版において14万種以上の動植物を評価しています。そのうち、およそ4万種の動植物が絶滅の危機に瀕しています。
最新のIUCNレッドリストは9つのカテゴリーに分類されます。そのうち3つのカテゴリー(CR、EN、VU)が絶滅危惧種です。
絶滅 Extinct, EX
すでに地球上から絶滅した種
カスピトラ、ジャワトラ、バリトラ、ニシクロサイ、フクロオオカミなど774種類の動物と、123種類の植物。
野生にも飼育下にも存在しないことを「絶滅」といいます。
はるか昔の野生生物の絶滅は隕石衝突や環境変化、進化などによると考えられています。
一方、ヒトが発展した有史以降は人間活動がおもな原因となっています。
皮・肉・角などを目的とした乱獲や過剰な駆除、外来種の持ち込み、生息地破壊など。これらは過去のものではなく、いま現在も動植物を苦しめつづけています。
わたしたちヒトはさまざまな動植物に影響を与えていることを自覚しなければなりません。
野生絶滅 Extinct in the Wild, EW
すでに野生では絶滅した種
シフゾウ、シロオリックス、ハワイガラスなど37種類の動物と、42種類の植物。
生息地における野生の個体が確認されなくなったとき「野生絶滅」と評価されます。
絶滅とは異なる点は本来の生息地以外での野生個体や飼育下の個体は生存しているところです。
ヒトコブラクダは数千年前に野生から姿を消しました。しかし、ウシやブタのように長い間ヒトとともに暮らしている動物です。
そのため、IUCNはヒトコブラクダを野生動物として扱わず、リストに掲載していません。
くわしくは「野生では絶滅していた!シフゾウとシロオリックスとヒトコブラクダ」をご覧ください。
絶滅危惧種【3つのカテゴリー】
絶滅のおそれのある種は、その危機度から3つに細分化されます。
- 絶滅が危惧されている種
- 深刻な危機
- 危機
- 危急
一般に絶滅危惧とよばれるのは上記3つのカテゴリーに掲載された約4万種の動植物をさします。
深刻な危機 Critically Endangered, CR
最も絶滅に近い種
アムールヒョウ、イリオモテヤマネコ、オランウータン、クロサイ、ゴリラ(マウンテンゴリラ除く)、シンリンゾウ、スマトラゾウ、スマトラトラ、ベローシファカなど3714種の動物と、5000種以上の植物や菌類。
個体数が非常にすくなく絶滅寸前のとき「深刻な危機」と評価されます。近絶滅種ともいいます。
80%以上の生息数減少、生息地の限定、成熟個体250未満などから個体数増加の見込みがきわめて低く、減る一方の動物たちです。
日本の動物園で飼育されている動物のなかにも絶滅間近の種がたくさんいます。
危機 Endangered, EN
絶滅のおそれが極めて高い種
アジアゾウ(スマトラゾウ除く)、アムールトラ、オカピ、ケープペンギン、サバンナゾウ、シロテテナガザル、ジンベエザメ、チンパンジー、マウンテンゴリラ、ワオキツネザルなど5907種の動物と、9400種以上の植物と菌類。
50%以上の生息数減少や成熟個体2500未満などから、絶滅に近づいている動物たちです。
危急 Vulnerable, VU
絶滅のおそれが高い種
インドサイ、カバ、キリン、コアラ、ジャイアントパンダ、チーター、ハシビロコウ、ビントロング、フォッサ、ホッキョクグマ、ライオン、ユキヒョウなど6858種の動物と、9000種以上の植物と菌類。
30%以上の生息数減少や成熟個体10000未満より、絶滅へとむかっている動物たちです。
動物たちを絶滅から救いたい!
IUCNレッドリストが絶滅の危機に瀕していると評価した動物は合計およそ16000種。
このままでは絶滅するであろう動物たちがこれほど多いという事実。例を見てわかるとおり、動物園で身近に感じている動物のほとんどが減少傾向にあります。
もはや動物だけの力で絶滅を避けることは容易ではありません。
そのため、さまざまな団体が現地での保全活動や施設での研究・繁殖活動にいそしみ、個体数回復をめざしています。
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絶滅危惧ではない種【2つのカテゴリー】
かつて絶滅のおそれがない種は、低危険(Lower Risk, LR)と評価していました。現在はLRを2つのカテゴリーに細分化しています。
- 絶滅が危惧されていない種
- 準絶滅危惧
- 低懸念
準絶滅危惧 Near Threatened, NT
将来、絶滅のおそれがある種
現在はある程度生息していますが、将来的に絶滅する可能性がある種を「準絶滅危惧」または「近危急」といいます。
アメリカバイソン、コウテイペンギン、ジャガー、ミナミシロサイ、ヤブイヌなど4930種の動物と、約3500種の植物や菌類。
低懸念 Least Concern, LC
絶滅のおそれがない種
アメリカグマ、オグロヌー、カピバラ、カンガルー、ニホンザル、ブチハイエナなど46120種の動物と、26000種以上の植物や菌類。
かつて低危険(LR)と呼ばれていたグループの中で、とくに絶滅の可能性が少ない種を「低懸念」に分類しています。
低懸念がいっきに絶滅危惧種になることも
ところが、保全の必要がないという意味ではありません。なかには、個体数が減少しているものもいます。
かつては低懸念(LC)だったエランドやシロフクロウは、近年絶滅のおそれが高い種(危急)に再評価されました。
狩猟や生息地破壊、地球温暖化によるエサの不足などが原因とされています。
上記のように、絶滅しないと思われていた動物が急激に減少することがあります。わたしたちはすべての動物に対して保全の必要があるか考えなければなりません。
データ不足 Data Deficient, DD
未評価 Not Evaluated, NE
データが不十分な種や評価が完了していない種
2022年3月現在、15000種以上の動物と、4700種以上の植物・菌類がデータ不足により、評価できていません。
つまり、絶滅の危機にあるかどうか確認できていないだけで、現実は絶滅に瀕しているかもしれません。
シャチは絶滅の評価がおこなわれていません
たとえばシャチは分類が定まっていないため、データ不足(DD)に挙げられています。
海の食物連鎖の頂点であるシャチは海洋汚染の影響を大きく受けます。体外に排出されない有害物質は食べられるたびに濃縮されていくからです。
シャチ生息数は徐々に減少しており、絶滅のおそれがあるといわれています。各国・各団体がシャチ保護のため尽力しています。
また、ワシントン条約附属書Ⅱに指定され、輸出入が制限されています。
日本のレッドリスト
レッドリストというと一般的にIUCN作成のものをさします。一方、レッドリストはさまざまな国や機関でつくられています。
日本の環境省では日本に生息する野生生物のレッドリストを公表しています。
IUCNのレッドリストとは名称が異なりますので、要注意。区分や意味合いは、ほぼ同じです。
絶滅
IUCNレッドリスト絶滅(EX)と同義。
エゾオオカミ、オキナワオオコウモリ、ニホンオオカミ、ニホンカワウソなど、計7種。
野生絶滅
IUCNレッドリスト野生絶滅種(EW)と同義。
現在、野生絶滅とされる種はいません。
絶滅危惧
IUCN同様、環境省が定める絶滅危惧はさらに3つに分類されます。
絶滅危惧ⅠA類
- ごく近い将来絶滅する危険性が高い
- IUCNレッドリストCRに相当
- イリオモテヤマネコ、ジュゴン、ツシマヤマネコ、ニホンアシカ、ラッコなど、計12種
絶滅危惧ⅠB類
- 近い将来絶滅する危険性が高い
- IUCNレッドリストENに相当
- アマミノクロウサギ、エチゴモグラ、オガサワラオオコウモリ、ケナガネズミなど、計12種
絶滅危惧ⅠⅠ類
- 絶滅の危険性が高まっている
- IUCNレッドリストVUに相当
- クロホオヒゲコウモリ、トウキョウトガリネズミ、ヤマワコウモリなど、計9種
準絶滅危惧
絶滅危惧に移行する可能性がある種。IUCNレッドリスト準絶滅危惧(NT)に相当。
エゾナキウサギ、シコクトガリネズミ、チョウセンイタチ、ツシマテン、トドなど、計18種。
環境省では絶滅危惧種を守るために、生息環境を改善したり、保護活動をおこなったりしています。
また、保護した絶滅危惧種の動物を生息地にかえす取り組みもおこなっています。トキやコウノトリは野生復帰が進められています。
動物園の役割
動物園にいる人気動物、パンダやゴリラ、ゾウ、ライオン、トラなど多くの動物に絶滅の可能性があります。
現在、動物園にいる種が途絶えると、その動物を見ることができなくなるかもしれません。
動物がいない動物園という状況を回避するために、世界中の動物園で繁殖や保護活動がおこなわれています。
繁殖活動|種の保全
多くの動物園では種を絶やさないよう繁殖活動に力をいれています。
動物の個体数が減少するなか、動物の価格は上昇しています。動物購入費の増大は動物園にとって重大な問題です。
さらに、ワシントン条約により商業取引が規制されている動物もいます。
とくに個体数が少なく新規導入がむずかしい動物は、早いうちに計画的に繁殖させなければなりません。
新しい血統がない近親交配の状態がつづくと、通常は排除されるような弱い遺伝子も受け継がれていきます。
その結果、生まれながらに奇形があったり、免疫が弱く病気になりやすかったり、寿命が短くなる傾向にあります。
仮に繁殖可能年齢以前に亡くなると、個体数が増えない状態がつづいてしまいます。
そのため、動物園間では繁殖を目的に動物を貸し借りする「ブリーディングローン」が盛んに行われています。
ブリーディングローンは商業目的ではないため、ワシントン条約に掲載された希少動物でも取引が可能となります。
近年は日本を含む世界中の動物園がひとつとなり、血統管理のもとブリーディングローンを実施しています。多様な家系を築くことは種を維持する鍵のひとつです。
また、動物園での繁殖は展示のためだけではありません。飼育個体を野生にかえすためでもあります。
ヒトの管理下で絶滅をのがれたシフゾウやシロオリックス。近年、飼育個体が生息地へ再導入され、野生個体群が誕生しています。
もしかしたら、野生絶滅(EW)から深刻な危機(CR)に変更される日が来るかもしれません。
保護活動
動物園では、野生生物の保護活動も行っています。
救える命を救うとともに、近親交配を避けるための新たな血統として大きな意義をもちます。
保護された動物は最終的に野生復帰させることが目標です。保護個体から誕生した子も野生に適応させることが理想的です。
国内の動物園は環境省のレッドリストに記載された動物の保護に取り組んでいます。
野生で保護されたツシマヤマネコやシマフクロウはいくつかの動物園で飼育・展示されています。
その他、わたしたちの目に入らないところで飼育されている保護動物もいます。
レッドリストの意義
レッドリストは「自然界の動植物がいかに危険な状態にあるのか」教えてくれます。
シフゾウやシロオリックス等の野生絶滅の存在や、動物園にいるほとんどの動物が絶滅に瀕しているという現状を知ることができます。
ただの動物一覧として終わらせるのではなく、今のわたしたちにできることを考えてみましょう。
上質な動物の毛皮や装飾品、ペットショップで売られている希少動物はいったいどこからやって来るのでしょうか?もしかしたら、密猟や違法取引で獲得したものかもしれません。
自然破壊や地球温暖化の原因はなんでしょうか?資源の無駄使いによるものかもしれません。
動物にとって良いことは環境にやさしいこと。わたしたちヒトにとっても大切なことです。
動物や自然のためにできることはたくさんあります。リサイクルや節電、寄付など、無理なく継続的にできることをしていきましょう!
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IUCNレッドリスト【まとめ】
- IUCNレッドリストのカテゴリーは9つ
- 3つのカテゴリーが絶滅危惧種といわれる
- 深刻な危機(CR)
- 危機(EN)
- 危急(VU)
- 約1.6万種の動物が絶滅の危機にある
レッドリストは絶滅のおそれのある動物がどれほど多いかを教えてくれるツールです。
動物園や水族館で見る動物の多くが絶滅に瀕していることに気付かされます。
動物園の仕事はわたしたちを楽しませる娯楽だけにとどまりません。動物の保全や研究、そして来園者への教育という重要な役割をになっています。
ただ動物を見せるだけでなく、動物の置かれた現況や研究結果等をお知らせしてくる動物園。
動物園に行ったらぜひ展示物にも目を通してみてください。なにより、今ある命の大切さを実感していただきたいです。
以上、レッドリストのお話でした。
【参考】
ディスカッション
コメント一覧
凄っ
素晴らしい!!
?さん
コメントありがとうございます
すすすすすすすすごっ
.さん
コメントありがとうございます
とてもびっくりしました