アムールヒョウ【特徴~絶滅の原因】アムールヒョウがいる動物園まとめ
突然ですが、ヒョウはどこに住んでいるでしょう?
多くの方が「アフリカ」と答えるかもしれません。
実は、アフリカだけでなくアジアにもヒョウは生息し、9つに分類されています。
今回のzoo zoo diaryはそのなかでも絶滅間近といわれる「アムールヒョウ」に注目!
アムールヒョウと他のヒョウとのちがいや特徴、絶滅の原因などを紹介します。
記事後半は日本のアムールヒョウの歴史をひもとくとともに、飼育施設リストと最新情報を掲載中です。

アムールヒョウとは?
ビッグキャット、いわゆる大型ネコ科動物は食物連鎖の頂点に君臨しています。
アフリカではライオン、アジアではトラ、南米ではジャガー、といったように重ならない地域で活動しています。
一方、ヒョウはアフリカからアジアまで広く分布しています。ライオンやトラを避けながら上手に暮らしています。
順応能力に優れたヒョウは環境に合わせた進化をとげ、現在9亜種が確認されています。それぞれ生息地が名前の由来となっています。
- 食肉目 Carnivora
- ネコ科 Felidae
- ヒョウ属 Panthera
- ヒョウ Panthera pardus
- アフリカヒョウ P. p. pardus
- ペルシャヒョウ P. p. saxicolor
- インドシナヒョウ P. p. delacouri
- ジャワヒョウ P. p. melas
- スリランカヒョウ P. p. kotiya
- インドヒョウ P. p. fusca
- アラビアヒョウ P. p. nimr
- キタシナヒョウ P. p. japonensis
- アムールヒョウ P. p. orientalis
- ヒョウ Panthera pardus
- ヒョウ属 Panthera
- ネコ科 Felidae
アムールヒョウはヒョウのなかで最も北に生息しています。ロシア極東およびその国境付近(中国北東)で確認されています。
単独行動を好み、活動範囲は1頭当たり150平方kmほど。想像がむずかしいですが、とても広い範囲(大阪府堺市と同等)をテリトリーにしています。
- IUCNレッドリスト 深刻な危機(CR)
- CITES 附属書Ⅰ
- 体長 100~130cm
- 尾長 80cm
- 体高 60cm
- 体重 オス45kg メス35kg
生息地以外にアムールヒョウとその他ヒョウ亜種との大きな差はありません。
体長およそ130cm。尾の長さは80cmほど。体重40kg前後ですが、オスの方が大きく50kgの個体も確認されています。
アムールヒョウの寿命は15年ほど。飼育下では20年以上生きた個体もいます。

100頭以下!絶滅寸前のアムールヒョウ
アフリカからアジアに広く生息するヒョウ。
生息地破壊や食糧難、ヒトとの接触などにより、すべてのヒョウが減少傾向にあります。
その中でもアムールヒョウは生息数100頭以下。絶滅間近の状態(IUCNレッドリスト深刻な危機)です。
アムールヒョウはおおくの希少動物と同じように、人間活動(森林破壊や密猟など)のため窮地に追いやられています。
かつてはロシア南東~中国東部、朝鮮半島まで分布したアムールヒョウ。現在は、ロシア極東部とその周辺という「非常に限られた地域」に「限られた個体群」しか存在していません。
そのため、遺伝子多様性の低さが問題となっています。
生息地が狭く個体数も少ないアムールヒョウは必然的に近親交配がふえます。
遺伝子が類似したもの同士の交配では病気や奇形が遺伝しやすいとされます。結果として死産の多さや寿命の短さにつながります。
つまり、アムールヒョウは個体数増加の見込みがすくないため、このままでは絶滅を避けることはできません。

アムールヒョウを絶滅から救いたい!
そこで、アムールヒョウの窮地を救うために2001年から本格的な保全計画が開始されました。
ロシアだけでなく、ブロンクス動物園を運営するWCS(野生生物保全協会)やロンドン動物園を運営するZSL(ロンドン動物学会)など世界中から、アムールヒョウのために研究者が集まっています。
アムールヒョウの生態や個体数の把握だけでなく、森林破壊や密猟の抑制、地元民の教育をおこない、ヒトがアムールヒョウの命を奪うことをふせいでいます。
さらに、飼育下繁殖させた個体を野生にかえし、新たな個体群の誕生をめざしています。
どの個体をどの地域にはなつのか、果たして野生で生きていけるのか、など議論は山積みですが。
今後の経過に注目です。

大規模な生息数調査の結果、アムールヒョウはかつて考えられていたより生存していることがわかりました。
とはいえ、2018年の報告では84頭。
アムールヒョウ絶滅を避けるためには継続的な保全活動が必要です。
アムールヒョウの特徴【ヒョウとの違い】
広い生息域をもつヒョウは全部で9種類。
すべて同じくらいの大きさで、色や柄も似ているため、一見して区別することは困難です。
しかし、それぞれの環境に適した進化が、亜種の特徴としてあらわれています。
- 体毛 ながい
- 体色 あわい
- 模様 おおきい
ふさふさのあわい毛|毛の長さと色
アムールヒョウは極寒の地で暮らしています。
冬になると長く厚い毛に生え変わります。夏毛2.5cmに対して、冬毛は7cmほど。
また、毛の色も変わります。夏は赤っぽい黄色ですが、冬は背景の白色(雪)にまぎれるよう、淡い黄色をおびています。
そのため、体の大きさはアフリカヒョウなどと同じくらいでも、長く淡い色の毛をもつアムールヒョウは大きく見えます。
寒い地域に住む動物は大きくなるというベルクマンの法則より、実際にアムールヒョウはヒョウの中で最大級とされています。
輪っかがおおきい|ヒョウ柄
皆さんご存知のとおりヒョウにはヒョウ柄があります。ロゼット【Rosette】柄とも呼ばれる花のような形の輪っかの模様です。
アムールヒョウの模様はひとつひとつが大きく切れ目のない輪であることが特徴。
トラと同じように、ヒョウの模様はカモフラージュの役割を果たしています。草木の生えにくい寒冷地では、密な模様は不自然なのかもしれませんね。

間違われやすいヒョウとジャガーの見わけ方は「ジャガーとヒョウの違い|柄も特技もすんでいる場所も違うよ」で紹介しています。
日本のアムールヒョウ【動物園の歴史】
日本で初めてアムールヒョウの繁殖に成功したのは北海道旭川市・旭山動物園です。
その後、神戸市・王子動物園、広島市・安佐動物公園、福山市立動物園でアムールヒョウが誕生しています。
ビッグとエイラの血統|日本初の繁殖
北海道旭川市・旭山動物園はロシア(当時ソ連)やアメリカの代表者が出席するなか、1967年に開園しました。
当初からロシアと友好関係にあった旭山動物園。アムールヒョウが寄贈され、日本でのアムールヒョウ展示がはじまりました。
しかし、繁殖には至らず。
1981年にアムールヒョウが死亡して以来、旭山動物園(日本)にアムールヒョウがいない日々が続きました。
そして1988年、待望のアムールヒョウが来園!フィンランドからオス「ビッグ」アメリカからメス「エイラ」がやってきました。
その2年後、2頭の間に初めて子が誕生。しかし、子はまもなく亡くなりました。
翌1991年、エイラ2回目の出産。心配されるなかエイラはメス「サクラ」を無事に生み育てました。
さらに、1996年にはメス「こと」が生まれました。
日本で初めてアムールヒョウの出産・育児を教えてくれたエイラは2002年に死亡。
ビッグはその後も旭山動物園で暮らし、2007年に22年間の長い人生をおえました。
初の日本生まれのアムールヒョウであるサクラは神戸市・王子動物園へ移動。
1996年、ドイツより来園した「カニム」との間に、ビッグとエイラの孫を授かりました。
サクラは2009年、カニムは2011年に死亡しました。2頭とも18歳と長生きでした。
サクラとカニムの娘「タマコ」は安佐動物公園へ移動。
ドイツより来園したオス「ベル」と繁殖に成功し、2004年、2頭のオス「アテネ」と「キン」が誕生しました。
その後、アテネとキンは旭山動物園へ移動。
キンは2017年に「トワ」と「ミライ」の父親となりました。母親は、ロシアより来園した「ルナ」です。
キンは当時12歳と高齢となり、果たして繁殖能力があるのか、多くの方が不安と期待をいだくなか、見事ビッグとエイラの血をのこしてくれました。
歴史的なビッグとエイラの血統を絶やさないために、トワとミライのペア探しが重要になってきます。
ベルの血統|13頭の子孫をのこしたオス
1997年ドイツ生まれの「ベル」1998年に広島市・安佐動物公園へやってきました。
ベルは2頭のメスと繁殖に成功。おおくの子孫をのこしてくれた日本のアムールヒョウ界をささえる個体です。
初めてのペア相手はビッグとエイラの孫「タマコ」。
2頭は3回繁殖をおこなった相性の良いペアでしたが、2006年タマコが難産により亡くなりました。とても悲しいニュースでした。
しかし、2008年、ベルは来日したばかりの「チャイム」と結ばれました。
チャイムは、2頭のメス「ピン」「ポン」と1頭のオス「ダッシュ」を生みました。
ピンとポンは、それぞれ福山市立動物園と王子動物園で繁殖に成功。
さらにポンの子「セイラ」はベルのひ孫「スク」「ラム」「トライ」を出産しました。
2017年、ベルは徳山動物園にて19歳で亡くなりました。
遺伝子多様性が問題となっています
2022年11月現在、日本では10か所の動物園で17頭のアムールヒョウが飼育されています。
日本で初めてアムールヒョウを生んでくれたエイラ。そのパートナーであるビッグ。この2頭から日本生まれのアムールヒョウの歴史がはじまりました。
日本にいるアムールヒョウの相関図を見てみると、ビッグとエイラの血統をひくアムールヒョウはキン(ひ孫)とトワ・ミライ(玄孫)の3頭のみ。
そして、現存している日本生まれのすべてのアムールヒョウにベルの血が入っていることがわかります。
トワ・ミライとスク・ラム・トライの血のつながりは薄いように思いますが。
今後、外国から新しい血統が入るのか、日本にいるアムールヒョウで繁殖をめざすのか、気になるところです。
外国生まれのメスは2頭だけ!
野生同様、飼育下のアムールヒョウでも遺伝子多様性の低さが問題となっています。
近親交配を避けるためには、世界中の施設が協力し将来をみすえた計画を立てなければなりません。
日本の動物園のアムールヒョウにおいて半数以上がベルの子孫です。
そこで鍵となるのが、日本生まれでないアムールヒョウたち。
2022年11月現在、日本にいる外国生まれのアムールヒョウのメスは安佐動物公園「チャイム」と東武動物公園「ルナ」だけです。
国内最高齢!安佐動物公園のチャイム
2003年ドイツ生まれの「チャイム」2004年にフランスの動物園へ移動し、日本には2008年にやってきました。

チャイムは来園した年にベルと繁殖。出産・育児に成功しました。
2015年、ベルと福山市立動物園での繁殖経験をもつ「アニュイ」が交換となりました。しかしチャイムとアニュイの子は生まれず。
2018年には、アニュイにかわって王子動物園での繁殖経験をもつ「アムロ」がやってきました。
2019年、アムロとチャイムの交尾が確認されました。しかし、ざんねんながら繁殖には至りませんでした。
2022年11月現在現在、日本最高齢のチャイム。アムールヒョウの寿命(15年ほど)を優に超えています。
2022年4月にはアムロが群馬サファリへ移動となり、現在は1頭暮らし。ゆっくりと老後をおくっていただきたいです。
つぎの繁殖へ「ルナ」東武動物公園
繁殖の能力があり、かつ独自の血統をもつメスは「ルナ」のみ。
ルナは2012年ロシア生まれ。2015年に旭山動物園へ移動してきました。
2017年、ビッグとエイラの孫である「キン」と繁殖に成功。当時5歳のルナは初産にもかかわらず、上手に子育てしてくれました。
日本にいる他のアムールヒョウとは異なる血統をもつルナ。日本の動物園としては優先的に繁殖させたい個体です。
新たなペアをつくるべく、2019年ルナは東武動物公園へやってきました。
すでに東武動物公園にはオランダ生まれの「アブス」がいます。海外出身のアムールヒョウかつ子孫をのこしていない唯一のオスです。
施設側としては新しい血統を生む貴重なペアです。
しかし、アブスが来日したのは2017年。当時、メスの「カラン」がいましたが繁殖には至りませんでした。
そして、2019年ルナ来園。アブスはすでに15歳になっていました。
いくら貴重な組み合わせとはいえ、繁殖適齢期にあるルナと高齢期にあるアブス。可能性は低いように思われますが。
日本アムールヒョウ界の未来をになう2頭。奇跡がおこることを願います。
アムールヒョウに会える動物園【10か所】
2022年11月現在、日本には10施設に17頭のアムールヒョウがいます。
北海道~中部
- 旭山動物園
- キン(2004年生)
- ミライ(2017年生)
- 宇都宮動物園
- トワ(2017年生)
- 群馬サファリ
- アムロ(2010年生)
- カラン(2014年生)
- 東武動物公園
- アブス(2004年生)
- ルナ(2015年生)
- よこはま動物園ズーラシア
- ダッシュ(2008年生)
- トライ(2019年生)
- いしかわ動物園
- コロン(2014年生)
関西~九州
- 王子動物園
- アニュイ(2008年生)
- セイラ(2015年生)
- スク(2019年生)
- 安佐動物公園
- チャイム(2003年生)
- 福山市立動物園
- ピン(2008年生)
- ラム(2019年生)
- 大牟田市動物園
- ポン(2008年生)
アムロは広島から群馬へ 2022年
ロシア生まれのアムロは独自の血統をもつオスです。
かつて神戸市・王子動物園で繁殖に成功。そしてアムロの娘セイラも繁殖に成功しています。
2018年に広島市・安佐動物公園へ移動。出産・育児経験のある貴重なメス、チャイムとの繁殖をめざしました。
交尾は確認されたものの子の誕生へはつながらず。
2022年4月、高齢となったチャイムのもとを去ることになりました。
アムロの移動先は群馬サファリパーク。2014年生まれのカランとのペアリングにいどみます。
いまのところ日本にいる動物園で交尾できるペアは3組。
- アムロとカラン(群馬サファリパーク)
- アブスとルナ(東武動物公園)
- アニュイとセイラ(王子動物園)
しかし、アブスはヒョウの寿命である15歳を超えています。そのため、繁殖の可能性は高くありません。
2019年以降、日本の動物園でアムールヒョウは生まれていません。
日本でアムールヒョウに会えなくなる日はそう遠くないかもしれません。
3つ子誕生!王子動物園 2019年
2019年7月、王子動物園生まれのセイラが3頭の子を出産しました。
父親はイギリス生まれのアニュイ。福山市や広島市を経て2018年に神戸市にやって来ました。
子は無事に生まれたものの、セイラが育児できなかったため、3頭は人工哺育となりました。
メス2頭(スク、ラム)、オス1頭(トライ)は元気に育ちました。
2020年トライは横浜市・ズーラシア、ラムは福山市立動物園へ移動しました。
2022年子どもたちは性成熟である3歳を迎えます。今後のペアリングに注目です。
現在、王子動物園ではアニュイ、セイラ、スクの3頭に会うことができます。
アムールヒョウの生態と特徴【まとめ】
- 生息 ロシア極東とその周辺
100頭以下 減少傾向 絶滅寸前 - 形態 体長110cm 尾長80cm 体重40kg
- 特徴 毛が長い 色が淡い ヒョウ柄が大きい
- 生活 単独行動(範囲がひろい)
- 寿命 野生15年
極寒の地で暮らすアムールヒョウ。もふもふの毛と大きなヒョウ柄が特徴的です。
現在の生息数は100頭以下。その美しい姿が世界から消えようとしています。原因はもちろん人間活動(森林破壊や密猟等)です。
遠いロシアで違法に伐採された木材やそれでつくられた家具などが日本をふくむ世界中におくられています。
わたしたちが木を利用するほど、森が消え動物たちが苦しんでいることを知っておかなければなりません。ロシアだけでなく東南アジアやアフリカでも同様のことが起こっています。
自然や動物のために不要なものは買わない生活をこころがけましょう。
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いま日本でアムールヒョウに会えることはとても貴重なこと。ぜひ実際にアムールヒョウの美しさを感じてみてください。

以上、アムールヒョウのお話でした。
【参考】
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