遺伝的多様性っていったいなに?動物の未来【絶滅のおそれ】との関係
野生動物がおかれている現状の評価をおこなう団体【IUCN】国際自然保護連合。
IUCNの発表には野生動物が直面する問題が書かれています。そのなかでよく出てくるのが「遺伝的多様性」ということば。
聞いたことはあるけれども、なんとなく読み過ごしていませんか?
密猟や生息地破壊とおなじように遺伝的多様性は動物の未来におおきな影響をあたえています。
遺伝的多様性の意味を知り、なぜ絶滅の原因となるのか考えてみましょう。
この記事は「遺伝的多様性」について個人的な見解を述べています。生物学の専門家ではありませんので、ご了承ください。
遺伝的多様性とは?
生物学上はもっと細かく難しい内容だと思いますが「個性や特徴の種類の豊富さ」をさします。
ヒトでいうと黒髪・金髪や直毛・縮毛など髪の毛ひとつとってもたくさんの個性(遺伝的多様性)があります。
遺伝的多様性がある/高い
遺伝的多様性があるということは、親から子へ伝わる情報がおおい状態。
さまざまな長所や個性がある(遺伝情報のかたよりが小さい)グループのなかで生まれる子は、きょうだいであっても似通る可能性がひくくなります。
また、新しい個性や強い個体が生まれやすい傾向にあります。
下図の「ー」の組み合わせは、長所の相乗効果や短所の補填によりさまざまな短所・長所をもった子孫が誕生します。
長所が短所をおぎなえる|個性
遺伝的多様性は生存競争そして繁殖成功の鍵となっています。
たとえば3きょうだいで3頭とも「あしが遅い」という短所を受けついだとします。
あしが遅いことは野生動物にとって非常に不利。草食動物にとっては天敵から逃げきれず、肉食動物にとっては獲物にありつけず、いずれも長生きできないと考えられます。
しかしながら、三者三様の優れた長所があれば、いずれかは短所をおぎない生き残れるかもしれません。
- 第1子:体力がある
- 狩りや逃走中 走り続けることができる
- 第2子:力がつよい
- テリトリー争いに勝つことができる
- 第3子:目・耳が良い
- いち早く敵(獲物)を発見できる
子孫のうち1頭でも長生きし繁殖に成功したならば、家系(血統)はつづいていきます。
環境の変化に対応できる|順応性
もちろん身体的な部分以外の遺伝的多様性も重要です。
似たような性格や体質の個体だけでは「種」はいずれ絶滅するおそれがあります。
たとえば、縄張りの環境がわるくなったとき、大胆さや探求心がある個体は冒険にでかけます。より良い環境を見つけるかもしれませんし、道中で危険に遭うかもしれません。
一方、臆病な個体は縄張りを飛びだせず、衰弱してしまいます。しかし、時が経てば環境が改善し以前のように健康に暮らせるかもしれません。
どちらの性格が功を奏すかはわかりません。ただ、どちらかは生き残る可能性があります。
病気に耐えられる|免疫力
ある病気が流行した場合、おなじような免疫機能しかもたなければ「生きるか死ぬか」の二択となってしまいます。
生きる場合はまだしも死ぬ場合「種」は壊滅的ダメージを受けます。
ウイルスには弱いけど細菌には強い、真菌には弱いけどウイルスには強いなどたくさんのパターンがあれば、病気に打ち勝つ個体がでてきます。
なかには、おなじ病気を発症したり、おなじ障害をもって生まれたりする家系もあります。かりに長生きできたとしても、健康な状態で繁殖することはむずかしいかもしれません。
しかし、その病気や障害をカバーできる遺伝情報をもった個体とまじわれば、より健康な家系になるでしょう。
種の存続には遺伝的多様性が不可欠!
このように遺伝的多様性はサバイバル・繁殖能力だけでなく、順応力や免疫力等にも影響します。
遺伝的多様性が高い状態は、家族全員が亡くなる可能性を小さく、子孫を残せる可能性を大きくします。
結果的にその動物種は遺伝的多様性を保つことができます。そして、簡単には絶滅しない強い動物となります。
ヒトはさまざまな身体的特徴や性格、体質等をもつ遺伝的多様性に富んだ動物です。絶滅のおそれがきわめて少ないといえます。
遺伝的多様性がない/低い
一方、遺伝子多様性がないということは、親から子へと伝わる情報が限られている状態。
長所・短所が似た(遺伝情報のかたよりが大きい)個体群では、下図の共通する長所・短所が次世代にひきつがれる可能性が高くなります。
つまり、きょうだいどころか、グループの皆が似通った状態。
力がつよい・目が良いグループになるかもしれませんが、体力がない・あしが遅いグループになるかもしれません。
長所と短所がおなじ|個性の欠乏
長所がひきつがれることは問題ありませんが、短所がひきつがれることは家系の存続に影響します。
そのため、動物はより優れた繁殖相手をさがし、自分の欠点をおぎなおうとします。
遺伝的多様性がない動物種では、おなじ長所と短所をもつ個体ばかり。
繁殖に成功しても、その子孫もまたおなじ長所と短所をもって生まれてきます。似通った個体がふえつづけ、個性のある個体はほぼいない状態になります。
おなじ性格や特徴をもった個体の集まりは、ひとつの環境に適した個体群といえます。
つまり、環境の変化があったときに対応できるものが現れにくく、あっという間に個体数が減少。最悪の場合、絶滅するかもしれません。
近親交配がふえる|生存率の低下
絶滅危惧動物のように生息数がすくない、もしくは生息地がせまい動物の場合、親類以外に繁殖相手がいない状況におちいることがあります。
結果、自分と似た体質のもちぬしと繁殖するしかなく、家族全員がそっくりになります。
かりにAとBというペアが成立したとします。
ただしAとBは父親がおなじ異母きょうだい関係にあります。さらにAとBは父親から「腎臓がわるい」という遺伝子をうけついでいます。
するとAとBのあいだには「腎臓がわるい」子Cが生まれる可能性が高くなります。
もしも子Cがまったく血縁関係のない「腎臓がよい」繁殖相手を見つけられたら、より健康な子孫をのこせるかもしれません。
しかし、子Cも親A・Bとおなじ道を歩まなければならなかったら、どうなるでしょうか?
さらに「腎臓がわるい」子が生まれる可能性が高まります。
このような繁殖(近親交配)が繰りかえされるうちに、どんどん遺伝情報のかたよりができてしまいます。
最終的に子孫のほとんどが「腎臓がわるい」ひいては短命となるかもしれません。
上図は極端な例ですが、近親交配はかつて動物園で平然とおこなわれていました。
結果、おなじ病気で早逝したりおなじ障害をもって生まれたり、悲運な動物たちがたくさん誕生しました。
近年は生物学から見ても動物福祉の観点から見ても正しくない行為として浸透しています。
野生でも飼育下でも大切なこと
現在、IUCNレッドリストが絶滅危惧種にあげている動物のおおくが遺伝的多様性の低下におちいっています。
生息地の破壊・分断により新たなグループ(血統)と交流ができなかったり、生息密度が増し近親交配がふえたり。密猟により個体数(遺伝情報)が減ったり、病気により1つの群れが全滅したり。
遺伝情報が似たものばかりの動物は環境の変化や病気などに対応できず、遅かれ早かれ絶滅の危機にひんするでしょう。
さらに限られた環境である飼育下でも遺伝的多様性が問題となっています。
相性がよいペアばかり繁殖したり近親交配が行われたり、遺伝情報のかたよりがあるためです。
近年は世界中の動物園が協力して血統管理をおこなっている動物種がふえています。
忘れてはならないのは、遺伝的多様性を脅かしているのもわたしたちヒトであること。
節電・節水、資源を大切にすること、ゴミをなくすこと等ちいさなことが地球環境つまり動物の生息地を守ります。
集客のため動物の赤ちゃんをむやみに増やすことは動物福祉にはんしています。おとなも赤ちゃんも野生動物らしく過ごしてほしいものです。
[広告]不要なものは買わないことが一番。必需品は売上の一部が寄付されるような商品を選ぶことで、自然や動物またはヒトをまもる活動につなげることができます。
以上、遺伝的多様性のお話でした。
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