動物園の展示方法【写真例で解説】むかし、いま、海外の動物園のちがいとは

08/31/2022

動物園というと、金属むき出しの檻や柵に動物たちが閉じこめられて「かわいそう」という印象はありませんか?

かつては動物がどんな暮らしをしているかわからず、ただ檻に閉じこめ飼育・展示することが動物園でした。そのため本来とはまったく異なる生活をしいられていました。

しかし近年は、たとえ動物園や水族館などヒトの手で飼育されている動物たちであっても、野生のようにいきいきと暮らせる環境をととのえることが常識となってきています。

むかしの動物園のイメージとはかけはなれた施設へと変貌しつつあります。

今回のzoo zoo diaryは進化しつづける動物園の展示に注目!昭和の動物園から最新の動物園まで、写真をまじえて紹介します。

むかしながらの動物園「形態展示」

世界でもっとも古い動物園はオーストリア・ウィーンにあるシェンブルン動物園です。

1752年にローマ帝国皇帝の命をうけて宮殿内に建設され、1778年に一般公開されました。1996年にはシェンブルン宮殿とともにユネスコ世界文化遺産に登録されています。

パビリオン(当時は朝食会場、現在はレストラン)を中心に放射状に動物展示場が配置されています。

皇帝の動物コレクション展示施設だったシェンブルン動物園は、アフリカやアメリカでとらえた野生動物を檻の中に閉じこめて展示していました。

それが全世界へひろまり、各国で動物園がつくられるようになりました。

数百年前からおこなわれていた動物そのものを見せる展示は「形態展示」と呼ばれています。

一般的にせまい檻のなかで単独飼育されます。現代の感覚では「動物がかわいそう」という印象をあたえるため、減少傾向です。

例)檻+単頭飼育
コンクリートと鉄のつめたい印象。病気や怪我、群れになじめない個体等をわける目的で利用されている場合があります。

徳山動物園 サルの檻

現在のシェンブルン動物園はガラスや柵の向こうに生息地がひろがるような動物優先の動物園に変化し、動物園のあり方をしめしています。

  • 動物そのものを見せる = 形態展示
  • むかしの動物園は檻をもちいた単頭飼育・形態展示が主だった
  • 現在は減少傾向だが、隔離のために利用されることがある

いまの動物園「みんなにやさしい」

日本では戦後の1950~1960年ごろにたくさんの動物園が建設されています。コンクリートの耐用年数が約50年のため、近年たくさんの動物園がリフォームされています。

昭和のヒト優先の考えとは正反対の動物優先の動物園となるために「生態展示」「行動展示」「混合展示」をとりいれた動物園がふえています。

もちろん来園者にとっても活発な動物が見れるメリットがあり、動物園にとっては収入増のメリットがあります。

現代の動物園は動物福祉を考えた展示とともに、檻や柵をなくした見やすい展示が主流となっています。

動物園展示の種類は明確に規定されていません。zoo zoo diaryの独断で分類しているため、他の情報と異なる部分があるかもしれません。ご了承くださいませ。

動物のための基本の展示法は三つ!

檻をもちいた形態展示は全世界にひろまり「動物を展示する施設」という動物園のイメージができあがりました。

当初はアフリカや南米などで捕獲した野生動物をせまいところで飼育することが当然となっていました。

しかし、徐々に「動物がかわいそう」という人々がふえ、動物愛護(動物をたいせつに)さらには動物福祉(動物をしあわせに)という考えが生まれました。

そのため、動物園は動物を優先する施設へ変わりつつあります。動物が動物らしく暮らせるようエンリッチメントをとりいれることが常識となっています。

動物福祉やエンリッチメントについては別記事に掲載していますので、割愛させていただきます↓

ここからは最近の動物園がとりいれている動物のために考えられた展示やその魅力を例をあげて紹介します。いずれもエンリッチメント対策となり動物福祉向上につながる展示法です。

動物園の展示

生態展示・生息環境展示|自然に暮らす

さて、動物によい環境とは何でしょう?

答えは簡単「自然」つまり「生息地」です。

そこで、動物園はそれぞれの動物の生息地にならった展示場づくりをはじめました。

動物の生態を意識した生息環境の再現ということから「生態(的)展示」あるいは「生息環境展示」と呼ばれています。

生息環境展示のメリット
  • 動物が暮らしやすい
    → 動物の健康・福祉につながる
    → 自然な動物が見れる
    → 生態や生息地を見てまなべる
生息環境展示のデメリット
  • ひろい敷地を確保する
    → 大規模な工事となる
    → コストがかかる
    → 植物等の管理が必要

欧米の先進的な動物園は40年以上前から生息環境展示をはじめています。日本では2000年ごろから生息環境展示がみられ、近年増加傾向にあります

そのアメリカ代表的存在であるカリフォルニア州・サンディエゴ動物園。一部だけでなく園全体を改革し、いまや生息環境展示の見本となっています。

例)ハシビロコウの生息環境展示
周囲は池で囲まれ、草がしげる湿地帯を再現。生態どおり動きはありませんが、一度だけ獲物をねらうようなそぶりを見せてくれました。

サンディエゴ動物園サファリパーク ハシビロコウ
サンディエゴ動物園サファリパーク

生息環境展示は砂や土の導入、栽植、プール設備等にくわえて、遊び場や休息場など趣の異なるスペースをつくるなど、十分な敷地と予算が必要となります。

また、本物の植物をつかっているため、その管理をしなければなりません。落葉樹や実がなるものは清掃が大仕事となります。

おもに県や市が運営している日本の動物園。飼育員は動物飼育以外に清掃や施設管理などいくつもの仕事をかけもちしています。

生息環境展示(動物のしあわせ)が動物園スタッフの苦労につながらないよう、行政の協力が必要です。

例)ニホンザルの生息環境展示
築山や草木からなる展示場。周囲はガラスやネットで囲まれています。伐採した木をくみあわせ、木登りできるよう工夫されています。

熊本市動植物園 サル山
熊本市動植物園

生息環境展示は動物がどんなところに住み、どんな暮らしをしているか、感覚的にまなべます。動物らしい行動が発揮され、特徴を知ることができます。

一方で、動物によっては穴や木の上などを好む生態をもちます。そのため、動物がいない(見えない)と思われてしまうことがあります。

しかし、それが動物の生態です。

あきらめずに「動物探し」をすると見つけたときに喜びをあじわえます。まさに野生の再現ですね。

行動展示|特徴をいかす

展示場のつくりにかかわらず、野生動物本来の動きをひきだすことを目的とした展示を「行動展示」と呼びます。

密林や川など再現がむずかしい環境を人工的につくり、木登りや水泳など動物たちの特技が発揮されるよう工夫された展示です。

行動展示のメリット
  • 特技が発揮できる
    → 運動不足、肥満解消につながる
    → 活発な動物が見れる
    → 特徴的形態をまなべる
  • 既存の展示場に導入できる
    → 低コスト、短期間
行動展示のデメリット
  • 複雑な展示場になる
    → メンテナンスがたいへん
    → 人工的な印象がつよい
    → 事故が起こるかもしれない

生態展示は展示場全体の環境整備が必要なため費用・期間がかかります。日本の動物園は入園料の安さや予算の関係から、最新の展示施設につくりかえることは容易ではありません。

一方、行動展示は比較的低コストで実施できます。

タワーやプールの導入はおおがかりな工事が必要ですが、縄をはる、泥場をつくるなど既存の展示場のなかで実施できる場合もあります

例)木登りと枝渡りするテナガザル
塔と縄を設置し森林を再現。縦横無尽に動きまわるテナガザルを見れます。

福岡市動物園 テナガザル タワー
福岡市動物園

例)水浴びが好きなブラジルバク
水辺にすむブラジルバクのためにプールを設置。気持ち良さそうに水につかります。

平川動物公園 ブラジルバク プール展示
平川動物公園

例)知能が高く器用なゴリラ
柱と縄、エサを複雑に配置。バランスを保ちながらエサをとり、採食に時間をかけます。

京都市動物園 ゴリラ 採食
京都市動物園

行動展示では、木登りのために腕がながい、潜水のために耳目鼻がならんでいる、などただ見るだけでは気づかない特徴的な形態(すがたかたち)に気づくことができます

また、おもちゃをあげたりエサのやり方をかえるなどのエンリッチメント(動物をしあわせにするための工夫)は行動展示につながります

むかしながらの設備であっても動物が楽しめるようにと行動展示やエンリッチメントをとりいれている動物園もあります。

混合展示|ともに暮らす

野生動物もヒトもおなじように、どこに行こうか、なにを食べようか、など考え、ときには大きな刺激や喜び、悲しみを感じながら生きています。

しかし、むかしながらの動物園ではせまい敷地で1種の動物を見せる形態展示が主。行く場所はなく与えられる食べ物を食べ、変化のない生活をおくる退屈そうな動物ばかりでした。

そこで、数種の動物をおなじエリアに放す混合展示」が生まれました。混合展示のメリットはおおく、現在はほぼすべての動物園で見ることができます。

混合展示のメリット
  • スペースを共有(節約)できる
    → コスト減、効率化につながる
  • 単頭展示より変化がうまれる
    → 退屈な時間がへる
  • 生態や形態のちがいを観察できる
    → 動物の理解がふかまる
混合展示のデメリット
  • 怪我や逃亡の危険性がある

例)マントヒヒとバーバリーシープの混合展示
どちらも岩場に生息しています。ときおり接触しながら適度な関係がたもたれています。

平川動物公園 マントヒヒ バーバリーシープ
平川動物公園

ちょっとしたエサや場所の取り合いは適度な刺激となり、動物の幸福度をたかめると考えられています。

一方で相性のわるい動物種や個体の場合は怪我や事故のもとになります。混合展示を実施するまでに飼育員が可否をしっかり見極めなければなりません。

また、不測の事態(闘争)がおきることを念頭に、よわい動物の避難場所をつくっておかなければなりません。

すべての動物が暮らしやすく、かつ逃走できないよう、十分な生態の理解と高度な設計技術を要する展示です。

動物園の三大展示場とは?

基本的な展示法のつぎは、展示場のつくりに着目してみましょう。おおきく「檻」「無柵」「ガラス」の展示場があります。

檻|立体的なつくり

檻は先述した形態展示のように古くからつかわれている設備です。

日本の動物園は近年リニューアルされ、見せるだけの形態展示はへってきています。と同時にせまい・かたい・つめたいなどマイナスイメージがつよい檻の展示場もへっています。

しかし、檻すべてが「悪」ではありません

檻のメリット
  • 立体的な構造をつくれる
    → 行動範囲がひろがる
    → 狭小地を利用できる
    → 行動展示を導入しやすい
  • 頑丈
  • 管理しやすい
檻のデメリット
  • 人工的な印象をあたえる
  • エンリッチメントが必須
    → なければ福祉的問題が生じる
  • 写真撮影に不向き

高いところにのぼる動物(サルやヒョウなど)は縦の空間を利用できるため、平面的な展示場より行動範囲がひろがります

さらに檻のなかにロープをはったり木を置いたりして、動物本来の行動をひきだす環境をつくること(行動展示)ができます。

殺風景な檻でも工夫次第で動物福祉はまったくちがってきます。

例)立体的な檻展示場
園路をおおうような構造、床は草や土。大木にのぼる姿を真下から見ることができます。

平川動物公園 ジャガー 展示
平川動物公園

敷地やスタッフ数、予算がかぎられている日本の動物園では、檻の方が動物の健康やしあわせにつながる場合があります。

一概に檻がない方がよいということではなく、動物にあった展示場をつくることが重要です。

また、コンクリートの床やせまい檻は管理しやすいため清潔をたもてるという利点もあります。

このことから動物たちの寝室はコンクリート造りが主流です。

もちろんコンクリートの床温度・湿度、かたさ等が自然のなかに暮らす野生動物に適すはずがありません。展示場だけでなく、寝室等見えない部分も動物にやさしいつくりになることを願っています。

無柵放養式|風通しのよいつくり

視界良好かつ目・耳・鼻で動物を感じれる、それが「無柵放養式展示」です。文字どおり柵のない場所に動物が放たれています

無柵放養式展示の歴史はふるく、1907年ドイツのハンブルクにある「ハーゲンベック動物公園」ではじまりました。後述する「パノラマ展示」の基礎といえます。

無柵放養式のメリット
  • 見晴らしがよい
  • 生息地再現や行動展示を導入できる
  • 写真撮影しやすい
無柵放養式のデメリット
  • 大規模な工事が必要
    → コスト・期間がかかる
  • 動物との距離がとおい

動物を閉じこめなくてよい理由

いままで頑丈な檻で動物を展示していたのに、なぜ檻が必要ではなくなったのでしょうか?

それは、動物の生態をただしく理解できるようになったからです。

無柵放養式展示は柵や檻をもちいないかわりに、モート(堀)で展示場を区切っています。

動物の生態から「水には決して入らない」「この高さ・長さは越えられない」などを考慮し、水堀もしくは空堀をつくっています。

動物園側が生態をただしく理解できていなければ、動物の脱走や怪我が起こってしまいます。

柵のない展示場は昭和スタンダート?!

柵のない展示は日本でも昭和の時代からとりいれられています。檻がいらず動物をじかに見れることから、たくさんの動物園で導入されました。

しかし、当時の日本の無柵放養式展示はコンクリートづくりの殺風景なものでした。

例)モートを利用したアジアゾウの展示
目線より下にモートと柵があり、視界をさえぎりません。何度か改修されていますが1950年代にできた展示場。生息地(森林)とはほどとおく、再整備がさけばれています。

王子動物園 アジアゾウ
王子動物園

日本の動物園では「サル山」という展示がおおいですが、これは海外のヒヒ展示場をまねてはじめたものです。

中央の山部分は目線より高いですが、周囲は堀になっています。サルがのぼれない壁や飛べない距離を計算してつくられています。

植物はなく岩や壁全体がコンクリート造りです。

例)サル山
縄やすべり台など遊び道具を設置。本来ニホンザルは森山にすむ動物。岩山(コンクリート)は適さないため今後へっていくと思われます。

福岡市動物園 サル山
福岡市動物園

ニュースタンダードは柵なし!自然!活発!

かつての無柵放養式展示は視界はひらけているものの、生息地の再現はされていませんでした。また、あやまった認識から動物本来の行動をとることができませんでした。

一方、現代の無柵放養式展示は行動展示や生息環境展示をとりいれた動きのある展示場となっています。

例)水が苦手なフクロテナガザルの展示
池で囲まれた島を展示場とし、柱、木、ロープをつかった行動展示をくみあわせています。視界が遮られることなく、活発なフクロテナガザルを観察できます。

日本モンキーセンター フクロテナガザル
日本モンキーセンター

柵・檻のみえない展示場は開放的な一方、動物との距離がとおいことがデメリット。

一部に通路やガラス、檻を設けるなど動物に近づけるよう工夫された展示場もあります。

ガラスビュー|動物と近づけるつくり

檻や柵でかこまれた展示場は、どうしても視界をさえぎられてしまいます。逆に柵のない展示場は見通しはよいものの、動物に近づくことはできません。

そこで、動物の形態や動きをより近くで見れるよう考えられたのが、ガラスやアクリルガラスの展示場です。

ガラスビューのメリット
  • 動物との距離がちかい
  • 水の中の動物を見れる
  • 既存の檻に導入できる
    → コスト減
ガラスビューのデメリット
  • ガラスをたたく人がいる
    → 動物へのストレス大
  • 反射や汚れで見にくい場合がある
  • 動物のにおいや音を感じにくい

いままで近づけなかった猛獣(ライオン、トラ等)や水生の動物(ホッキョクグマ、カバ等)はガラスビューがふえています。

床面をガラスにかえてあしの裏を見れる展示場もあります。

一方ですべてガラス張りの展示場は動物特有のにおいや息づかいを感じることはできないというデメリットがあります。

そのため檻の一部をガラスにかえた展示場もあります。

例)ユキヒョウのガラスビュー
檻の一部がガラスになっている展示場。檻越しににおいや音も楽しめます。

熊本市動植物園 ユキヒョウ スピカ
熊本市動植物園

一度は見たい!スケールのおおきい展示

日本の動物園のおおくは市や県など行政機関が運営しています。わたしたちの税金や入園料などの収入でまかなわれています。

一方、海外の動物園は動物に関する団体や企業が運営しています。日本に比べると高額な入園料にくわえ寄付金や研究費などでまかなわれています。

そのため一般に海外の動物園の方が資金が豊富。そのぶん動物の飼育・展示に予算をさくことができ、日本では見れないような大規模な動物園をつくることができます。

ここでは海外の動物園より「パノラマ展示」と「ランドスケープイマージョン」を紹介します。

野生動物の世界がひろがる!パノラマ展示

パノラマ【Panorama】とは広大な景色をさします。動物園では見渡すかぎりにひろがる展示を意味し、無柵放養式展示の発展形といえます。

先述したハーゲンベック動物公園では無柵放養式として「パノラマ展示」を披露しました。広いエリアに異なる動物が飼育され、おおきな話題を呼びました。

しかし、無柵放養式の混合展示のことではありません。

実はパノラマ展示は混合展示ではなく、いくつかの無柵放養式展示場がくみあわさってできたものです。

それぞれの展示場は高低差や岩、植物などで区切られています。観覧エリアからは展示場の境目や園路が見えず、ひとつのエリアに数種の動物がいるように見える設計です。

例)ハーゲンベック動物園のパノラマ展示
フラミンゴ、草食獣、ライオン、アンテロープの展示場がかさなって見えます。展示場のあいだには観覧通路がありますが、視界のさまたげにならないつくり。

画像元 https://hagenbeck.de/

野生のように草食動物と肉食動物が共存し、どこまでもつづいているように感じる展示場。まさに目の前にひろがる「パノラマ」展示といえます。

日本でもパノラマ展示は見れる?

ときおり無柵放養式展示そのものがパノラマ展示といわれることがありますが。広大な景色を「パノラマ」と表現することから混同されているのかもしれません。

本記事では、ハーゲンベック動物園のようなかさなりあった無柵放養式展示場群をパノラマ展示と呼びます。

パノラマ展示ではありません(無柵放養式展示+混合展示)
森とつながりパノラマのような展示場。ハーゲンベックのパノラマ展示とはまったく異なるものです。

平川動物公園 アフリカ園
平川動物公園

パノラマ展示は広範囲におなじ生息域の動物をまとめ、全体をデザインする必要があります。先をみすえた設計をしなければならず、難易度が高い展示です。

そのため、ハーゲンベック動物園のような素晴らしいパノラマ展示はめったに見かけることができません。

八木山動物公園「アフリカ園」のパノラマ展示

宮城県仙台市・八木山動物公園の「アフリカ園」はパノラマ展示をとりいれています。

アフリカゾウ、キリン、クロサイなどそれぞれの展示場は区切られていますが、おなじ敷地にいるように見えます。

高低差のない展示場なので、動物の位置によってはパノラマ展示には見えません。わたしは条件がそろわず、いつかリベンジしたいです。

写真は左上にちいさくシマウマの背中が見えています→

八木山動物公園 アフリカ園 ゾウ

異世界!ランドスケープイマージョン

もっとも新しいとされる動物展示法は「ランドスケープイマージョン」と呼ばれるもの。1978年にアメリカ・ワシントン州のウッドランドパーク動物園で初披露されました。

ランドスケープ【Landscape】景色にイマース【Immerse】浸るという意味で、観覧者を生息地に来たように感じさせる手法です。

ことばにすると複雑ですが、イメージは「大規模な生息環境展示」。

ものによってはランドスケープイマージョン=生息環境展示と書かれています。わたし個人としては日本の生息環境展示とランドスケープイマージョンはまったく異なる印象をうけましたので、別に紹介しています。

現地の植物や土、岩にいたるちいさなものまで研究し、生息地をできるだけ正確に再現することにつとめています。

さらに生息地再現を動物側だけでなく観覧者側までとりいれ、一体感のある空間をつくりだします。

動物の暮らす環境を理解しやすいうえに非日常をあじわえる展示です。

例)マレートラのランドスケープイマージョン展示
入り口にはトラに注意の看板。竹藪の向こうはひろく、本物の草木や岩風呂のようなプールがあります。現地の自然公園を訪れているような気分。

ブロンクス動物園 タイガーマウンテン
ブロンクス動物園 マレートラ
ブロンクス動物園

しかし、ランドスケープイマージョン展示は生息地を完全再現するために広大な敷地を要します。さらに、動物だけでなく植物や地質にも詳しくなければなりません。

つまり、各専門家の協力や物資の調達等に莫大な費用がかかります

ニューヨーク州・ブロンクス動物園はいくつもの施設にランドスケープイマージョンをとりいれています。生息地の研究や保全につとめ、動物のためにはたらく世界的に有名な動物園です。

例)コンゴ・ゴリラ・フォレスト
広さ2.6万平方メートル(サッカーコート3面)、全行程500メートルをこえるコンゴの森。20人のゴリラにくわえコンゴを代表する4種の動物(オカピ、マンドリル等)が暮らしています。

ブロンクス動物園 ゴリラ
ブロンクス動物園

おおきな話題をよんだランドスケープイマージョンは、アメリカ中心に全世界にひろまっています。

ところが、生息環境展示以上に動物を見つけることがむずかしく来園者満足度とコストが見合っていないと指摘する人々もいます。

個人的には動物優先かつ異世界をあじわえるランドスケープイマージョンはぜひともつづけてほしい展示です。

動物園デザイナー「若生謙二」先生とは?

日本では大阪芸術大学・若生謙二教授がランドスケープイマージョンの概念をいちはやくとりいれました。

1991年より天王寺動物園の再整備計画にたずさわり、「アフリカサバンナ」「アジアの熱帯雨林」ゾーンをデザイン。

これまでの国内の動物園とは比べものにならないほど自然で開放的な生息地環境展示は大ニュースに。天王寺動物園はいっきに注目の的になりました。

その後、どんどん若生先生の作品はふえ、横浜市・ズーラシア「チンパンジーの森」や上野動物園「パンダのもり」など全国の動物園で人気をはくしています。

若生先生は海外の動物園や生息地でまなんだものを日本に応用しています。多彩な植物と自然な風合いの設備でまとめられた素晴らしい展示場です。

実は2016年リニューアルオープンした山口県宇部市・ときわ動物園は若生先生が大々的に設計・指導を担っています。

ある一部の展示場だけではなく園路や観覧スペースまで一体感のある自然な印象。若生先生がおもいえがくランドスケープイマージョンや生息環境展示を存分に体感できる動物園です。

ときわ動物園 シロテテナガザル
ときわ動物園

最近では、2020年上野動物園「パンダのもり」2021年7月茶臼山動物園「オランウータンの森」がオープンしています。

日本の動物園は予算や敷地がかぎられています。アメリカの動物園のような「これぞランドスケープイマージョン」といえるものはないかもしれません。

しかし、若生先生はじめ動物が動物らしく暮らせる環境をつくろうとする人々によって、日本の動物園は進歩しつづけています。

いま世界中の動物園が動物を優先する施設へとかわっています。

動物の研究がすすむにつれ、野生環境の再現や食事内容の改善など「飼育下の動物たちがより良い生活をおくれる」ように動物園は努力しています。

とはいえ、野生のように行動できずエサをえらべない、さらには自然界にはない音や匂い、そしてヒトの視線があります。いくらがんばっても野生とはほど遠い存在です。

日本でも飼育されているホッキョクグマは陸~氷海と行動範囲がひろく、生息環境再現は不可能。動物園のホッキョクグマの幸福度は非常にひくく、飼育すべきではないといわれはじめています。

動物園廃止論をうったえる人々もたくさんいます。わたし自身、ヒトのエゴだと感じ嫌になることもあります。

しかし、動物園に行ったから動物を好きになり動物学や保全をまなびだしたヒトがいて、動物園があったから救われた動物がいます。

いまおおくの動物種が絶滅の危機にひんしています。それをふせごうと努力している団体と動物園が協力して種の保全に尽力しています

いま、動物園は「見せる」施設から「まなび・研究」の施設へとかわりはじめています。ぜひ動物のためにはたらく動物園に行ってみください。

以上、動物園の展示のおはなしでした。

【参考】

Jon Coe Design

大阪芸術大学

天王寺動物園