インドライオン【生態と特徴】横浜の動物園に4頭います
ライオンの生息地といえば、多くの方は「アフリカ」と答えるでしょう。もちろん、それは正解です。
しかし、真の正解は「アフリカとインド」実はインドにも野生のライオンがいます。
今回は知られざるインドのライオンを特集!
アフリカのライオンとの見た目や群れ、寿命のちがいはあるのでしょうか?比較しながらインドライオンの生態と特徴を紹介します。
さぁインドライオンについて勉強して、動物園に会いに行きましょう!
インドライオンとは?
食肉目ネコ科ヒョウ属のライオン。2024年4月現在、さらに2亜種に分類されています。
ライオンの新分類
一般にライオンと呼ばれるのはアフリカに生息するライオン【African Lion】そして今回注目するライオンは、アジアに生息するライオン【Asiatic Lion】です。インドライオンとも呼ばれています。
かつては、アフリカライオン[Panthera leo leo]とアジアライオン[Panthera leo persica]の2亜種といわれていたライオンの種類。
近年の遺伝子研究の結果、新しいライオンの分類が発表されました。
- Panthera leo ssp. leo
- 生息 西・中央アフリカとインド
- Panthera leo ssp. melanochaita
- 生息 東・南アメリカ
インドと西・中央アフリカのライオンが近縁であることがわかり、東・南アフリカのライオンと区別する動きが出ています。
乱獲や生息地破壊により西アフリカと中央アフリカのライオンは絶滅寸前。
アフリカ西部には400頭前後。W・アルリ・パンジャリ自然公園群(ニジェール、ベナン、ブルキナファソ)に90%以上のライオンが生息しています。
アフリカ中央部ではカメルーンや中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国等に生息。全部で2000頭未満と推測されています。
つまり、西・中央アフリカのライオンはインドライオンと同じように絶滅の可能性が非常に高いといえます。
生息数が安定・増加傾向にある南アフリカのライオンと区別されることで、西・中央アフリカのライオンはぐっと絶滅へちかづくことになります。
そうすると、国や保全団体の活動が活発化し、ライオンがより丁重にあつかわれるでしょう。今後の動きに要注目です。
アフリカのライオン
- IUCNレッドリスト 危急(VU)
- CITES 附属書Ⅱ
- 生息数 2.3万頭
- 生息 サハラ砂漠以南のサバンナや低木地帯
アジアのライオン
- IUCNレッドリスト 危機(EN)
- CITES 附属書Ⅰ
- 生息数 670頭
- 生息 ギル国立公園の樹林や草原
英名はアジアライオンですが、日本の動物園ではインドライオンの名で紹介されています。そのため、以降はインドライオンで統一しています。ご了承くださいませ。
ライオンは絶滅のおそれが高い動物です。
さらにインドライオンはとくに個体数がすくなく生息域が小さいことから、絶滅のおそれがきわめて高い動物(IUCNレッドリスト危機)に指定されています。
なお、ワシントン条約により輸出入規制があり、インドライオンは学術目的以外の取引が禁止されています。
インドのみ|インドライオンの生息地
かつては、インドのみならず中東アジアにも生息していたインドライオン。アフリカのサバンナに生息するライオンと異なり森林を好む動物です。
現在は、インド北西部にあるギル国立公園・野生生物保護区およびその周辺でのみ確認されています。
ギルの自然のほとんどは保護区。インドライオンをはじめとする貴重な動植物が、密猟や自然破壊から守られている地域です。
一方の、保護区外では密猟に加え、井戸に落ちて亡くなるライオンがしばしば発見されており、事故防止策が急務となっています。
絶滅危惧種|インドライオンの生息数
1880年代、インドライオンの生息数は推定15頭まで減少し、絶滅寸前でした。
せまい生息域に限られた数しかいないインドライオン。近親交配により、なんとかその血をひきついできました。
そのため、遺伝的多様性のひくさが個体数増加の課題となっています。
また、密猟、不測の事態(井戸への落下、ウイルス感染など)によってインドライオンは減りつづけていました。
しかしながら、インド政府の大規模な保護活動の結果、インドライオン生息数は徐々に増加。2023年にはインドライオンは674頭と発表されました。
増えつづけて密状態?!ヒトとの接触増加も
絶滅危惧種の保全活動として大きな成功をおさめたインド政府。インドライオンを絶滅から救ったとして、世界中から評価されています。
ところが、現在は「ギル国立公園の自然が足りない」という問題に直面しています。
森林に居場所がないインドライオンたちは本来の生息地ではない平野へ。そして、家畜やヒトを襲うという悲しい事件が増加しています。
また、限られた生息域では、獲物不足や繁殖環境の悪化だけでなく、感染症の流行が心配されます。1個体の病気が全滅の引き金になりかねないからです。
これらの問題を解決するために、インド政府はギル国立公園とおなじグジャラート州にある野性生物保護区にインドライオンを移す計画を実行しています。
インドライオンの特徴「アフリカライオンとの違い」
さて、インドライオンは生息地以外に、アフリカに住むライオンとどんな違いがあるのでしょうか?
ここからは、インドライオンの特徴をアフリカライオンと比較しながら紹介します。
体格|インドライオンは小さい?
見た目はどちらもライオン。瞬時に判断することは容易ではありません。
アフリカライオン
- 体長 150~200cm
- 尾長 80cm
- 体高 110cm
- 体重 オス200kg メス120kg
インドライオン
- 体長 130~180cm
- 尾長 80cm
- 体高 100cm
- 体重 オス180kg メス110kg
インドライオンは比較的小柄。おとなオスでも200kgを超す個体は発見されていません。
体長は頭から尾まで含めて290cmの個体が、これまで確認された最大のインドライオンです。
小さいといえでも大きいですよね。実際にアフリカライオンと見比べることは少ないため、サイズだけでは判断が難しいかもしれません。
体毛|色とたてがみの生え方
アフリカライオンに比して、体毛の色が明るいといわれるインドライオン。
雌雄ともに全体的に毛深く、子ライオンはふさふさしています。
成熟したオスライオンに生えるたてがみにも違いがあります。
インドライオンのたてがみは頭頂部が短いのが特徴。
アフリカのオスライオンは、頭から首まで長いたてがみが生えます。そのため、耳は見えにくくなっています。
ところが、インドライオンは頭の毛が少ないので耳がしっかり見えます。
また、インドライオンは肘に房毛がたくさん!そして尾の先端に生える房毛も長く立派です。
見わけポイントはおなか!
おとなオスを見ればインドライオンの区別はできそうですね。
では、メスライオンや子どもはどうでしょう?たてがみがないのでより難易度高め。
しかし、意外なところに見わけ方がかくれています。
それは、お腹。
実は、インドライオンのお腹には一筋の皮膚のひだがあります。横向きのインドライオンを見ると、お腹の真ん中の皮膚がたれているのがわかると思います。
これは、インドライオンにしかない大きな特徴です。
インドライオンの群れと狩り
インドライオンはアフリカライオンと同じように、群れ(プライド)で暮らしています。
個体数が少ないためか、メス2頭ほどの小さなプライドをつくります。ちなみにアフリカライオンのプライドのメスは平均5頭ほどです。
アフリカでは、オスライオンは多くの時間をプライドのメスや子どもたちと過ごします。
一方インドでは、オスは常にプライドのメスと行動をともにするわけではありません。繁殖期にだけプライドに合流する様子も確認されています。
獲物がすくないインドでは飢えを避けるため小さな単位で行動すると推測されています。
一般的に群れをなすライオンは狩りも複数で行います。
ところが、調査によるとインドライオンは群れで出かけたとしても、狩りをするのは1頭のライオンだとわかってきました。
ほかのライオンは傍観し、獲物が倒れたら群れの皆で食べるスタイル。複数等のメスが戦略的に狩りをするアフリカライオンとは異なります。
開けたサバンナより目隠しのおおい森林では「獲物に接近しやすく狩りの成功率が高い」のではと考えられています。
おもな獲物はシカやウシの仲間。保護区外では家畜を襲うため、近隣住民との確執が生まれています。
寿命|インドライオンは長生き?!
遺伝的多様性が問題視されるインドライオンですが、一般にアフリカライオンより寿命が長い傾向にあります。
- アフリカライオン 13年
- インドライオン 15年
アフリカにおいて、10歳を超えたオスライオンはプライドを維持することが困難になってきます。プライドを失くしてまもなく死亡するオスは珍しくありません。
そのため、アフリカライオンのオスはメスに比べて寿命が短い傾向にあります。
一方のインドライオンの成獣の生存率は90%以上!多くは15年の天寿を全うします。
野生ライオンの最高齢(推定)はアフリカで14歳、インドで15歳といわれています。
飼育下では、どちらも20年以上生きた例があります。
インドライオンに会える動物園 2か所
非常に数の少ないインドライオン。飼育下での繁殖が種の保全のために必須となります。
しかし、動物園は純粋なインドライオンの血統を確保することに苦難しています。
ギル国立公園があるインド・グジャラート州ジュナガドにあるザックカーバーグ動物公園【Sakkarbaug Zoological Park】がインドライオン繁殖基地となっています。
日本では2か所の動物園でインドライオンを展示しています。いずれも神奈川県横浜市にあります。
バーラとヴェラが来園!2024年3月
繁殖のないまま高齢化が進み、のこるインドライオンはオス2頭。
と思っていたところ、2024年3月驚きのニュース!なんとシンガポール動物園との動物交換により2頭のインドライオンが来日しました。
受け入れ先はインドライオンを飼育しつづける2園のうち1園、よこはま動物園ズーラシアです。
2011年3月生まれのメス「バーラ」と2012年8月生まれのオス「ヴェラ」2頭とも10歳を超え決して若くはありません。
長距離移動や環境の変化がどう影響するか気になるところですが。日本で健やかに暮らせることを願います。
※2024年4月20日現在、未公開
バドゥリ|よこはま動物園ズーラシア
オスのバドゥリ(2011年生)は2017年にシンガポール動物園から繁殖目的にやってきました。
ざんねんながら2022年3月にガウリーが亡くなり、子孫をのこすことはできませんでした。
2024年に来園したバーラはバドゥリと誕生日・誕生園がおなじなので、きょうだいなのかもしれません。
ラージャー|野毛山動物園
2008年2月、ズーラシアで生まれたオスのラージャー。
誕生時すでに衰弱していたため、人工哺育で成長。2014年に野毛山動物園へ移動しました。
15歳を超え高齢ですが、とても美しいお顔立ちです。
上野動物園にインドライオンはいません
上野動物園は2002年に妊娠したメス「チャンディ」をズーラシアからひきうけました。
チャンディは無事3頭の子を上野で出産。結果、上野では母チャンディと子3頭「アニタ」「シャクティ」「モハン」を飼育していました。
みな血縁関係にあるため、繁殖のない人生を終えました。
オスのモハンが2019年11月に死亡し、上野動物園でのインドライオン展示は終了しました。
インドライオンの生態と特徴【まとめ】
- 生息 インド・ギル国立公園の樹林や草原
670頭 安定傾向 - 生活 小さなプライドもしくは単独
- 特徴(アフリカライオンと比べて)
- 体が小さい
- 体毛が明色
- 頭部のたてがみが短い(耳が見える)
- おなかに皮膚のひだがある
- 寿命 15年(アフリカライオン 13年)
アフリカではなくインドに生息するライオン。
いまだにわからないことも多いですが、アフリカのライオンとは見た目も生活もちがっています。
インド政府や保全団体の活動により、なんとか絶滅をまぬかれたインドライオン。近年は生息数が安定傾向にあり、その数は徐々にふえています。
世界に1000頭といない「インドライオン」ぜひとも見てほしい・知ってほしい動物です。
以上、インドライオンのお話でした。
【参考】
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