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多摩に来園!タスマニアデビルの生態と特徴|かわいい悪魔の正体

オーストラリアといえば、カンガルーやコアラなどのんびりした動物たちが代表的です。

では、オーストラリアに肉食動物はいるのでしょうか?

答えはイエス!それが今回特集する「タスマニアデビル」です。

ヒトからも恐れられ「悪魔」と呼ばれる動物とはいったいどんな動物でしょうか?

タスマニアデビルの生態・特徴とタスマニアデビルに会える動物園を紹介します。

タスマニアデビルとは?

オーストラリアにしかいない肉食動物タスマニアデビル。単に「デビル」とも呼ばれます。

デビル【Devil】悪魔という名は、闇のなかから聞こえる不気味な鳴き声が悪魔の声のようだ、と例えられたことに由来しています。

タスマニアデビルは、一般に肉食動物をさすネコ目(食肉目)ではなく「フクロネコ目」に分類されます。

われわれにとって「袋をもつネコ」はまったくなじみがありませんが、その仲間はなんと60種以上!そんななか、タスマニアデビルはタスマニアデビル属唯一の存在です。

  • フクロネコ目 Dasyuromorphia
    • フクロネコ科 Dasyuridae
      • タスマニアデビル属 Sarcophilus
        • タスマニアデビル Sarcophilus harrisii
サンディエゴ動物園タスマニアンデビル 座

タスマニアデビルはオーストラリア南東にうかぶタスマニア島に生息しています。

正確な個体数はわかっていません。1990年代に10万頭以上いたタスマニアデビルは3万頭以下に減ったといわれています。

  • IUCNレッドリスト 危機(EN)
  • CITES 記載なし
  • 生息 タスマニア島 3万頭
  • 体長 オス65cm メス58cm
  • 尾長 25cm
  • 体高 25cm
  • 体重 オス11kg メス8kg

過去10年間でタスマニアデビルが60%以上減少していることから、タスマニアデビルの絶滅の可能性は極めて高い状態IUCNレッドリスト危機)です。

ワシントン条約の規制はありませんが、オーストラリア政府が輸出入をきびしく制限しています。

タスマニア島にしかいません

タスマニアデビルはオーストラリア大陸の南東にあるタスマニア島の海岸付近から山林までひろく分布しています。とくに森と草原の境界のような木がまばらなに生えている場所を好みます。

はっきりとした理由はわかっていませんが、およそ3000年前にタスマニアデビルはオーストラリア本土から姿を消しました。

  • オーストラリア本土でのタスマニアデビル絶滅の原因(仮説)
    1. 天候の変化
    2. 感染症等の病
    3. ディンゴとの衝突
    4. ヒトとの衝突

2020年には、オーストラリア本土の自然保護区にタスマニアデビルが再導入。翌年に自然繁殖が確認されています。

何千年もいなかった肉食動物がやってくることは、オーストラリア本土の野生動物や自然環境にとって吉か凶か。今後の研究報告も要チェックです。

タスマニアデビルの形態

現存する有袋肉食動物(フクロネコ目)の最大種であるタスマニアデビル。

  • メス < オス(体重10kg 体長60cm以上)
  • 体毛 黒 胸に白い三日月模様
  • 耳  大きい 赤い
  • 爪牙 鋭い 顎の力が強い

オスの方がおおきく体重10kg、体長60cm以上。なかには体高30cm体重14kgほどのタスマニアデビルが確認されています。

全体は黒毛でおおわれ、胸に三日月のような白い模様があります。ちょうどツキノワグマのものと似ています。

からだに対して耳がおおきく、また、血流がよいため赤く見えます。興奮したりストレスを感じたりすると、さらに赤くなります。

肉食動物らしい鋭い牙や爪をもち、オオカミとおなじくらい強い顎の力をもっています

有袋類なのでメスはおなかには袋(育児嚢)があります。

カンガルーはおなか側に袋の入り口があります。一方の、タスマニアデビルは土を掘る習性があるため、育児嚢のなかに砂が入らないよう、おしり側に袋の入り口があります。

あしの裏の秘密|フクロネコの肉球

タスマニアデビルの四肢はみじかく、胴長に見えます。前あしの方がながく指は5本。後あしの指は4本だけです。

フクロネコ科の動物は特徴的な肉球をもちます。かかとやあし首をおおう、ぶあつい革製品のような見た目。もはや肉球には見えません。

表面はちいさな凹凸があり、すべりどめやクッションの役割を果たすと考えられています。ちなみにとてもやわらかいそうです。

後あし立ちするときはあしの裏全体を地面につけ、歩くときはつま先だけつけます。

タスマニアデビルは顔が大きい!

タスマニアデビルは体に対してとても顔が大きい動物です。

高齢になると体の筋力が衰えていくため、顔(頭部)の重さが体重の4分の1ほどを占めます。ヒトの頭は体重の約10%なので、その倍以上重たい計算になります。

タスマニアデビルは肉食動物。大きな骨や肉を噛みちぎるために、顎の筋肉が発達しています。必然的に顔が大きく、重たくなりました。

タスマニアデビルの噛む力は同じ体重のイヌの4倍もあるといわれています。

タスマニアデビルの生態

タスマニアデビルは1頭につき複数の巣穴をつくり、数日おきに移動しながら活動しています。

木登りは狩りのときなどに限られ、基本的に地上で単独行動をとります。夜のあいだに移動や食事をし、日中は巣穴でやすみ、ときに日光浴をして過ごします。

優れた嗅覚のもちぬし

タスマニアデビルは1km先のにおいがわかるほど嗅覚が優れています。おのおの行動範囲ににおい(糞)をのこし、自分の居場所や状態をアピールします。

タスマニアデビルの目は夜間に見えるよう進化しています。また、動くものをとらえるのは得意ですが、止まっているものはよく見えません。

実は平和主義?!デビルの威嚇

大きな口に尖った歯がびっしり生え、よく見ると狂暴そうなタスマニアデビル。

実は「闘争」より「逃走」をえらぶ平和主義の一面があります。

もちろん相手に襲われたり罠にかけられたりすると反撃しますが。基本的には攻撃ではなく口を大きくあける等のディスプレイ(威嚇)でおわります。

一方で、交尾や繁殖相手のとりあいのときには攻撃的になることが報告されています。

大食!騒!デビルの食事

タスマニアデビルは小さくか弱そうに見えますが、タスマニア島生態系の上位をしめる捕食者。つまり、肉食動物です。

通常1日に体重の10%ほどの肉を食べますが、最大で体重の40%もの量を食べることができるほど大食漢!もし50kgのヒトだったら20kgものお肉を食べる計算です。

このことから、タスマニアデビルは多くのエネルギーを必要とする代謝が良い動物だとわかります。

ちなみに非常用の脂肪を尾に蓄えており、太い立派な尾をもつタスマニアデビルは健康であることを意味しています。

タスマニアデビルは何を食べるの?

タスマニアデビルは夜行性のため狩りはもっぱら暗くなってから。トカゲやカエルなどを食べます。

一方で、ワラビーやウォンバットなど倍ほどの大きさの動物をするどい歯で仕留めることができます。

しかし、タスマニアデビルは狩り以上に死肉を食べることが多い動物といわれています。

皮とおおきな骨以外はきれいに食べつくし、タスマニアの自然の清潔をたもつ役割をになっています。アフリカのハイエナとおなじような存在ですね。

ひとりが好きだけど…

不思議なのは単独行動をとるにもかかわらず、食事は複数頭でおこなうこと。

これはタスマニアデビルたちが血肉のにおいをかぎつけ集まってくるから。嗅覚の優れたタスマニアデビルならではの現象です。

デビルたちは威嚇をしあいながら騒がしくガツガツ食べます。

実は、悪魔と表現されるタスマニアデビルの声は食べるとき以外ほぼ聞くことはありません。ふだんは静かで悪魔の要素はありません。

しかし、暗闇から骨や肉をむさぼる音と奇妙な鳴き声が聞こえたら、きっと恐怖を感じるでしょうね。

袋で育つ|タスマニアデビルの繁殖

タスマニアデビルの発情期は3月ごろ。妊娠期間は1か月前後。米粒ほどの小さな子が誕生します。

小さな赤ちゃんは有袋類動物あるあるですが、タスマニアデビルの場合は数十頭の赤ちゃんが生まれます。

しかし、母親のおなかの袋(育児嚢)のなかの乳首は4つだけ。そのため、最初にたどりついた4頭だけが成育できます

超未熟児状態の赤ちゃんタスマニアデビルたちは約4か月のあいだ育児嚢のなかで育ちます。その後出袋しますが、およそ9か月間は母親のたすけが必要です。

ちいさなタスマニアデビルがよりちいさな赤ちゃんを背負う姿はとっても可愛らしいです。

性成熟は2歳ごろ。

タスマニアデビルの寿命は野生5年。飼育下では8年生きた個体が記録されています。

ところが、近年DFTDの影響かタスマニアデビルの早熟が観察されています。

タスマニアデビルの天敵

タスマニア島で種を守ってきたタスマニアデビル。

かつては絶滅したタスマニアタイガーがタスマニアデビルの捕食者でした。現在は、タカなどの大型猛禽類がタスマニアデビルの天敵です。

また、空腹の際は共食いが見られます。同類から逃げるために、タスマニアデビルの幼獣は木登りが得意と考えられています。

しかしながら、絶滅危惧動物といわれる動物たちを最も苦しめているのはわれわれヒトです。

1800年代には、ヨーロッパの入植者によってタスマニアデビルの駆除がはじまりました。100年以上もつづいた迫害により、タスマニアデビルは絶滅寸前まで追い込まれました。

1941年、ようやく保護法が施行され、少しずつタスマニアデビルの生息数は増加していました。

タスマニアデビル死因No.1「がん」

ところが、タスマニアデビルを苦しめる新たな事件が発生。

伝染性の病【Devil Facial Tumour Disease, DFTD】デビル顔面腫瘍性疾患の流行です。

デビル顔面腫瘍性疾患【DFTD】とは?

DFTDは1996年にはじめて疾患として認識されましたが、1980年ごろから発生していると考えられています。

きわめて致死性がたかく、80%以上の野生タスマニアデビルがDFTDのために亡くなったといわれています

あっという間に絶滅に近づいたタスマニアデビルを救おうと、り患したデビルを隔離したり科学者がワクチンや治療法の研究をおこなったりしています。

また、近年の報告によると、病に打ち勝ち寿命(5年以上)をまっとうする個体がふえつつあるとのこと。

いままさにタスマニアデビルはDFTD耐性タスマニアデビルへと進化しています。

タスマニアデビルに会える!多摩動物公園

2024年4月現在、日本でタスマニアデビルに会える動物園は東京都・多摩動物公園1か所です。

2頭のデビルが来日|2024年2月

2023年10月、当時日本に1頭だったタスマニアデビル「テイマー」が亡くなりました。今後、デビルたちが日本にやってくることはないのだろうと思っていました。

しかし嬉しい予想外!

2024年2月、2頭のタスマニアデビル「ワイティー」と「パピティ」がオーストラリアから多摩動物公園へやってきました。

タスマニア州政府はDFTDからタスマニアデビルたちを守る保全活動を行っています。保護施設で飼育されていた2頭は、デビルの教育普及活動の担い手として来日したのです。

欧米の動物園では、アニマルアンバサダーとして働く希少動物がたくさんいます。

ただ、ワイティーとパピティは非公開施設で育ったため「見られる」ことに慣れていないようす。来園者の多い多摩動物公園でのびのび過ごすには、すこし時間がかかりそうです。

ワイティーとパピティが健やかに過ごせるよう、長時間の観覧は控えて静かに見守りましょう!

2016年来日のタスマニアデビルたちは亡くなりました

2016年オーストラリアから多摩動物公園へタスマニアデビルの姉妹「マルジューナ」「メイディーナ」が来日。日本では20年ぶりとなるタスマニアデビル公開でした。

その翌年には「テイマー」「ダーウェント」という兄弟がやってきました。

このたび来日したタスマニアデビル4頭は、タスマニアデビルの実態を多くのヒトに知ってもらうべく教育普及活動の一環としてやってきました。

ざんねんながら2017年、2019年にメス2頭が死亡。以降はオス2頭のみとなりました。

2021年11月に断脚手術をうけ懸命に生きていたダーウェント。ざんねんながら2023年1月に亡くなりました。

日本で唯一のタスマニアデビルになったテイマーも7歳と超高齢。室内と屋外を行き来する日々を送っていました。

そして2023年10月、テイマーは自力で動くことができなくなり、安楽死処置がおこなわれました。

寿命5年といわれるタスマニアデビル。ダーウェントもテイマーも一生懸命生きてくれました。

多摩動物公園スタッフの方々のケアはもちろんのこと、彼らのがんばりのおかげで新たな個体の来日つながったのかもしれませんね。

タスマニアデビルの生態と特徴【まとめ】

  • 育児嚢をもつ肉食動物(フクロネコ)
  • 生息 タスマニア島 3万頭
  • 特徴
    • フクロネコ目最大種
    • 全体は黒 胸に白い三日月模様
    • 鋭い爪牙と強い顎をもつ
    • かかとやあし首まで覆う肉球(すべりどめ、クッションの役割)
  • 生活 夜行 地上 単独
  • 食事 肉食(死肉が多)大食い
  • 繁殖 妊娠期間1か月 育児嚢期間4か月 性成熟2歳
  • 寿命 野生5年

タスマニアデビルという「おなかに袋がある肉食動物」にも絶滅の危機が迫っています。

ヒトからの迫害や外来種との闘争、さらに致死率のたかいデビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)など、タスマニアデビルを苦しめる要因はいくつもあります。

オーストラリア・タスマニア島にしかい希少な動物を救うために、オーストラリア政府をはじめたくさんの団体が活動中です。

ぜひ可愛い悪魔「タスマニアデビル」お見知りおきを!

以上、タスマニアデビルのお話でした。

【参考】

国際自然保護連合

日本動物園水族館協会

多摩動物公園

Department of Natural Resources and Environment Tasmania