動物園で見られなくなる動物?!アムールヒョウ【歴史と未来】
ロシアや中国のさむい地域に生息するアムールヒョウ。
世界でもっとも珍しいネコといわれ、生息数は推定およそ100頭の絶滅寸前の動物です。
2024年5月現在、日本の動物園はそんな希少なアムールヒョウを14頭も飼育しています!しかし、この先も日本でアムールヒョウを見つづけることができるのでしょうか?
今回は日本で暮らすアムールヒョウたちのつながりがわかる、歴史と未来を紹介します。
アムールヒョウに会える動物園リストは別記事に掲載中です↓
アムールヒョウとは?
アムールヒョウの生息地はロシア極東およびその国境付近(中国北東)。生息数100頭前後と絶滅寸前(IUCNレッドリスト深刻な危機)といわれています。
大きさはアフリカや東南アジアに生息するヒョウとさほど変わりませんが、淡色で長い毛が生えているのが特徴です。
くわしくは「絶滅寸前!アムールヒョウ【生態と特徴】他の豹と何が違うの?」をご覧ください。
野生より多い!!動物園のアムールヒョウ
世界でもっとも珍しいネコと呼ばれるアムールヒョウ。その姿を野生で発見するのは非常に困難です。
かつては数十頭といわれていましたが、生息地研究がすすみ現在では推定100頭ほどと考えられています。
限られた地域に限られた数しかいないアムールヒョウ。
実は、世界中の動物園で飼育されており、その数はなんと200頭以上!野生の倍の飼育下アムールヒョウが存在します。
日本のアムールヒョウ【動物園の歴史】
2024年5月現在、日本の動物園は14頭のアムールヒョウを飼育しています。では、そのルーツを紐解いていきましょう!
日本で初めてアムールヒョウの繁殖に成功したのは北海道旭川市・旭山動物園。
その後、神戸市・王子動物園、広島市・安佐動物公園、広島県・福山市立動物園でアムールヒョウが誕生しています。
ビッグとエイラの血統|日本初の繁殖
北海道旭川市・旭山動物園はロシア(当時ソ連)やアメリカの代表者が出席するなか、1967年に開園しました。
当初からロシアと友好関係にあった旭山動物園。アムールヒョウが寄贈され、日本でのアムールヒョウ展示がはじまりました。
しかし、繁殖には至らず。
1981年にアムールヒョウが死亡して以来、旭山動物園(日本)にアムールヒョウがいない日々が続きました。
そして1988年、待望のアムールヒョウが来園!フィンランドからオス「ビッグ」アメリカからメス「エイラ」がやってきました。
その2年後、2頭の間に初めての子が誕生。しかし、子はまもなく亡くなりました。
翌1991年、エイラ2回目の出産。心配されるなかエイラはメス「サクラ」を無事に生み育てました。さらに、1996年にはメス「こと」が生まれました。
日本で初めてアムールヒョウの出産・育児を教えてくれたエイラは2002年に死亡。
ビッグはその後も旭山動物園で暮らし、2007年に22年間の長い人生をおえました。
ビッグとエイラの血は「トワ」「ミライ」へ
初の日本生まれのアムールヒョウであるサクラは神戸市・王子動物園へ移動。
1996年、ドイツより来園した「カニム」との間に、ビッグとエイラの孫を授かりました。
サクラは2009年、カニムは2011年に死亡しました。2頭とも18歳と長生きでした。
サクラとカニムの娘「タマコ」は広島市・安佐動物公園へ移動。
ドイツより来園したオス「ベル」と繁殖に成功し、2004年にオス「アテネ」「キン」が誕生しました。
その後、アテネとキンは旭山動物園へ移動。
キンは2017年に「トワ」「ミライ」の父親となりました。母親は、ロシアより来園した「ルナ」です。
キンは当時13歳と高齢であり、果たして繁殖能力があるのか、多くの方が不安と期待をいだくなか、見事ビッグとエイラの血をのこしてくれました。
歴史的なビッグとエイラの血統を絶やさないために、トワとミライのペア探しが重要になってきます。
ベルの血統|13頭の子孫をのこしたオス
1997年ドイツ生まれの「ベル」1998年に広島市・安佐動物公園へやってきました。
ベルは2頭のメスと繁殖に成功。多くの子孫をのこしてくれた日本のアムールヒョウ界をささえる存在です。
初めてのペア相手はビッグとエイラの孫「タマコ」。
2頭は3回繁殖をおこなった相性の良いペアでしたが、2006年タマコが難産により亡くなりました。とても悲しいニュースでした。
しかし、2008年、ベルはフランスから来日したばかりのメス「チャイム」と結ばれました。
チャイムは、2頭のメス「ピン」「ポン」と1頭のオス「ダッシュ」を生みました。
ピンとポンは、それぞれ広島県・福山市立動物園と王子動物園で繁殖に成功。
さらにポンの子「セイラ」はベルのひ孫「スク」「ラム」「トライ」を出産しました。
2017年、ベルは山口県・徳山動物園にてその生涯を終えました。19歳と当時国内最高齢でした。
遺伝子多様性が問題となっています
2024年5月現在、日本では9か所の動物園が14頭のアムールヒョウを飼育しています。
日本で初めてアムールヒョウを生んでくれたエイラ。そのパートナーであるビッグ。この2頭から日本生まれのアムールヒョウの歴史がはじまりました。
日本にいるアムールヒョウの相関図を見てみると、ビッグとエイラの血統をひくアムールヒョウはトワ・ミライ(玄孫)の2頭のみ。
そして、現存している日本生まれのすべてのアムールヒョウにベルの血が入っていることがわかります。
つまり、日本の動物園にいるアムールヒョウのなかで繁殖できるペアが非常に少ない状態です。
トワ・ミライとスク・ラム・トライの血のつながりは薄いように思いますが。
今後、外国から新しい血統が入るのか、日本にいるアムールヒョウで繁殖をめざすのか、気になるところです。
外国生まれのアムールヒョウが5頭に!
生息数の少ないアムールヒョウは遺伝情報が似通った個体がおおく、遺伝的多様性の低さが問題となっています。
これは、野生だけでなく、飼育下のアムールヒョウでも起こっている問題です。
血のつながりがあるもの同士の繁殖(近親交配)を避けるためには、世界中の施設が協力し将来をみすえた計画を立てなければなりません。
日本の動物園のアムールヒョウは半数以上がベルの子孫です。
そこで鍵となるのが、日本生まれでないアムールヒョウたち(ベルの子孫ではないアムールヒョウ)。
その数は4頭まで減っていましたが、2023年10月、なんとなんと嬉しいニュースが飛び込んできました!
デンマーク生まれのオスのアムールヒョウ「デン」が旭川市・旭山動物園へやってきました。デンの来園により外国生まれのアムールヒョウは計5頭となりました。
- 旭川市・旭山動物園「デン」
- 広島市・安佐動物公園「チャイム」
- 神戸市・王子動物園「アニュイ」
- 埼玉県・東武動物公園「アブス」「ルナ」
デンマーク生まれの「デン」1歳です
2023年10月、約8年ぶりとなる新たなアムールヒョウの来日です。
デンマーク生まれのオス「デン」2022年5月生まれ。アムールヒョウの性成熟は3歳ごろなので、まだまだ幼い個体です。
しかし、毛深さといいヒョウ柄の大きさといい、立派なアムールヒョウのデン。大きく環境が変わったにもかかわらず落ち着いているようすで、一安心です。
ビッグとエイラの血を継ぐべく「ミライ」とのペアリングがうまくゆくことを祈っています。
国内最高齢!安佐動物公園のチャイム
2003年ドイツ生まれの「チャイム」2004年にフランスの動物園へ移動し、日本には2008年にやってきました。
チャイムは来園した年にベルと繁殖。3頭の子「ピン」「ポン」「ダッシュ」の出産・育児に成功しました。
2015年、高齢となった「ベル」と、福山市立動物園での繁殖経験をもつ「アニュイ」が交換となりました。しかし、チャイムとアニュイの子は生まれず。
2018年には、アニュイにかわって王子動物園での繁殖経験をもつ「アムロ」がやってきました。
2019年、アムロとチャイムの交尾が確認されましたが、ざんねんながら子は生まれませんでした。
かりにアニュイかアムロとチャイムの子が誕生していいたら、遺伝的にベルと遠い存在になります。
日本の動物園としては何としても繁殖成功したかったペアだと思いますが、時すでに遅し。アニュイとペアリングが行われたとき、すでにチャイムは12歳と若くはありませんでした。
もう少し早く繁殖計画がすすんでいれば、結果は違ったかもしれませんね。
2023年7月現在現在、日本最高齢のチャイム。アムールヒョウの寿命(15年ほど)を優に超えています。
2022年4月、アムロが群馬サファリへ移動となり、現在は1頭暮らし。ゆっくりと老後をおくっていただきたいです。
アムロが亡くなりました|2023年
2010年ロシア生まれのオス「アムロ」は独自の血統をもつオスです。
神戸市・王子動物園でチャイムの子「ポン」と繁殖に成功し、1頭のメス「セイラ」が誕生しました。
2018年に広島市・安佐動物公園へ移動。出産・育児経験のある貴重なメス「チャイム」との繁殖をめざしましたが、子は生まれず。
2022年4月、アムロは群馬サファリへ移動。ポンのきょうだい「ピン」の娘「カラン」と繁殖をめざすことになりました。
個人的に期待していたペアですが、ざんねんながら2023年6月アムロが死亡しました。13歳でした。
王子動物園のアニュイ|イギリス生
アニュイは2008年イギリス生まれ。2011年に広島県・福山市立動物園へやってきました。
日本中の期待を背負ったアニュイは、見事2014年にベルの子「ピン」と繁殖に成功しました!
その後、アニュイは繁殖オスとして2015年12月に広島市・安佐動物公園へ、2018年11月に神戸市・王子動物園へ移動しました。
ざんねんながら、広島市の「チャイム」とのペアリングは成功せず。
しかし、王子動物園でアニュイにとって2度目の繁殖に成功しました。お相手はベルの孫にあたる「セイラ」子は3頭生まれました。
2023年アニュイは15歳と高齢に。遠いイギリスから度重なる移動に耐え、計5頭ものアムールヒョウを日本に残してくれました。
健やかな老後を送って頂きたいです。
東武動物公園のルナに注目!
埼玉県・東武動物公園のアムールヒョウ「ルナ」は2012年ロシア生まれ。
2015年、北海道・旭山動物園へ移動してきました。そして2017年、ビッグとエイラの孫である「キン」と繁殖に成功。
当時5歳のルナは初産にもかかわらず、上手に子育てしてくれました。
日本にいる他のアムールヒョウとは異なる血統をもつルナ。日本の動物園としては優先的に繁殖させたい個体です。
新たなペアをつくるべく、2019年ルナは東武動物公園へ移動となりました。
オランダ生まれのアブス|東武動物公園
ルナの来園前から、東武動物公園には2004年オランダ生まれの「アブス」がいました。
アブスは海外出身のアムールヒョウかつ子孫をのこしていない唯一のオスです。動物園側としては新しい血統を生む貴重なペアです。
しかし、アブスが来日したのは2017年。当時、メスの「カラン」がいましたが繁殖には至りませんでした。
そして、2019年ルナがやってきたとき、アブスはすでに15歳になっていました。
いくら貴重な組み合わせとはいえ、繁殖適齢期にあるルナと高齢期にあるアブス。奇跡がおこることを願っておりましたが。
アブスは19歳とアムールヒョウの寿命を優に超えるご長寿。健康に過ごしてほしいです。
2019年以降、日本の動物園でアムールヒョウは生まれていません。
いまのところ日本にいる動物園で繁殖できるペアは2組。
- デンとミライ(旭山動物園)
- アニュイとセイラ(王子動物園)
アニュイとセイラはすでに3頭の子をもうけているため、最優先ペアはデンとミライ。しかし、ヒトの予想通りにいくとは限りません。
野生でも飼育下でも血統の偏りが大きいアムールヒョウ。日本でアムールヒョウに会えなくなる日はそう遠くないでしょう。
以上、日本の動物園にいるアムールヒョウのお話でした。
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