トラって何種類?日本で会える虎の特徴と見わけ方
アムールトラ・スマトラトラ・ベンガルトラを徹底解説!
トラといえば黄色と黒の毛皮を持つ大型ネコ科動物。美しさとたくましさを合わせ持つ猛獣に、世界中の人々が魅了されています。
では、みなさんが思い浮かべているトラは「何トラ」でしょうか?
動物園やメディアでは「トラ」と紹介されることもあり、何種類もトラが存在することを知らない方もいるでしょう。
そこで、今回のzoo zoo diaryでは意外と知られていないトラの種類や違いを紹介します。
トラの分類|1種9亜種
食肉目ネコ科ヒョウ属のトラ。
分類「種」としては1種のみ。さらに細かな分類「亜種」は生息地ごとに9つ確認されています。
ざんねんながらカスピトラ、バリトラ、ジャワトラはすでに絶滅しました。
- 食肉目 Carnivora
- ネコ科 Felidae
- ヒョウ属 Panthera
- トラ Panthera tigris
- ベンガルトラ P. t. tigris
- アムールトラ P. t. altaica
- インドシナトラ P. t. corbetti
- マレートラ P. t. jacksoni
- アモイトラ P. t. amoyensis
- スマトラトラ P. t. sumatrae
- カスピトラ* P. t. virgata
- バリトラ* P. t. balica
- ジャワトラ* P. t. sondaica
- トラ Panthera tigris
- ヒョウ属 Panthera
- ネコ科 Felidae
すべてのトラが絶滅危惧種
悲しいことにすべてのトラは絶滅の危機に瀕しています。
なかでもスマトラトラは絶滅寸前を意味するIUCNレッドリスト深刻な危機(CR)。
アモイトラもCRと評価されていますが、1970年代以降確認されていないため、絶滅している可能性が高いといわれています。
また、すべてのトラはワシントン条約附属書Ⅰに記載され、学術目的以外の輸出入は禁止されています。
【関連記事】レッドリスト「絶滅のおそれのある動植物一覧」の解説
実は2亜種?!トラ分類は議論中です
2015年、現在分類されている9つのトラに関して、骨格や遺伝子などの情報を研究した論文が発表されました。
そこにはなんと9亜種のトラはたった2つのタイプしかないと書かれています。
1つ目はスマトラトラ、バリトラ、ジャワトラ。そして2つ目が残りの6亜種です。
- P. t. tigris 現分類ベンガル、アムール、インドシナ、マレーアモイ、カスピをふくむ
- P. t. sondaica 現分類ジャワ、スマトラ、バリをふくむ
現在、さらなる研究結果をまっている状態です。近い将来、トラの亜種分類はかわるかもしれません。
もし、2亜種説が採用された場合、トラ保全はおおきく変わります。
【3亜種】日本の動物園で飼育されているトラ
日本では現在9つのうち3つのトラを飼育・展示しています。
会いに行ける虎「アムールトラ」「スマトラトラ」「ベンガルトラ」を詳しく見ていきましょう!
アムールトラ
ロシアと中国北東部のアムール川、ウスリー川周辺のタイガ(針葉樹林)に生息しています。シベリアトラとも呼ばれています。
アムールトラはかつて数十頭まで激減。絶滅寸前の深刻な状態にありました。
保全活動により現在は安定傾向。2007年に絶滅危惧種のランクがひとつ下がりました。
とはいえ、アムールトラは400頭ほどしか確認されておらず、絶滅の可能性がきわめて高い動物です。
- Panthera tigris ssp. altaica
- IUCNレッドリスト 危機(EN)
- 生息 ロシア極東周辺 400頭
- 体長 150~200cm
- 尾長 100cm
- 体高 90cm
- 体重 オス180kg メス120kg
最大のネコ|オスは200kg超も
トラの大きさには雌雄差があります。
オスは尾を含む全長3メートル、体重180kgほど。なかには300kgを超す個体も確認されています。
一方、メスは全長2.5メートルほど、体重120kg前後とオスより小型です。
寒い地域で生活する動物は大型になる傾向にあります。これは、より多くの熱をつくり体温を維持するためだと考えられています。
そのため、寒冷地帯に生息するアムールトラは最も大きなトラといわれています。
ところが実際にはアムールトラとベンガルトラは同等の大きさ。つまり、この2種が「最大のネコ」といえます。
アムールトラは寒さをしのぐため、全体的に長く厚い体毛がはえています。
さらに、しま模様が比較的うすく腹部の白い毛が目立ちます。これは生息地に雪が多いため淡い方が保護色になるのでは、と考えられています。
行動範囲が超ひろい!東京23区以上
テリトリーを保持するネコ科動物の中でも、アムールトラはとくに行動範囲が広いことで知られています。
東京23区(約620平方km)をゆうに超え、何百kmも歩きまわります。
極地であるタイガに住みつく動物はそう多くありません。数少ない獲物を探すために、アムールトラの行動範囲が必然的にひろくなったのでしょう。
アムールトラは広大なテリトリーを保持するために、においや爪痕でマーキングをおこないます。このマーキング作業だけでも大仕事。
そのため、動物園で見るような肉付きの良いアムールトラは野生には少なく、痩せた個体が多いといわれています。
野生アムールトラの現状
かつては朝鮮半島まで広く分布していたアムールトラ。森林破壊や密猟により、その数は減少。一時は約30頭まで落ち込みました。
保護区の設立や支援団体により、現在は400頭前後で安定傾向。2007年、IUCNレッドリストはアムールトラを深刻な危機(CR)から危機(EN)に再評価しました。
とはいえ、少ない個体数で生きのびてきたアムールトラ。遺伝子多様性が著しく低いことが心配されています。
絶滅寸前の危機をだっしたものの、絶滅のおそれがきわめて高い状態です。
スマトラトラ
東南アジア南部、インドネシアのスマトラ島に生息するスマトラトラ。
スマトラオランウータンやスマトラゾウ同様、急速な生息地破壊・分断により個体数が減りつづけています。
さらに密猟やヒトとの接触により殺されるスマトラトラがおおく、課題は山積みです。
生息地が限定的であることと個体数の減少がとまらないことから、絶滅間近とされています。
- Panthera tigris ssp. sumatrae
- IUCNレッドリスト 深刻な危機(CR)
- 生息 インドネシア・スマトラ島 400頭
- 体長 150cm
- 尾長 80cm
- 体高 80cm
- 体重 90kg
インドネシアにおける森林破壊は「ゾウはなぜ絶滅危惧種なの?象の今と未来のためにできること」にて説明しています。
最小のトラ|小さいけどたてがみが立派
寒い地域に生息するアムールトラとは反対に、暖かい地域に生息するスマトラトラは最も小さいトラといわれています。
オスメスともに全長およそ2メートル、体重100kg前後。アムールトラのオスに比べると半分ほどです。
全体的に体毛は短めですが、頬から輪郭の毛が長く、とくにおとなオスは立派なたてがみがはえます。
また、スマトラトラはしま模様が圧倒的におおく背中のしまは束になっています。
スマトラトラとヒトの関係
インドネシアでは大昔からスマトラトラとヒトとの対立が問題となっています。
土地開発によりヒトの生活域とスマトラトラの生息域が重なり、衝突はますます増えました。ヒトにとって不都合なスマトラトラは駆除の対象となってしまいました。
悲しいことに、商売やヒトとの抗争のため1年間に50頭ものスマトラトラが殺された年もあります。
生息地破壊と密猟によりスマトラトラ生息数は減少がつづき、現在は推定400頭。その多くは国立公園や保護区内で生活しています。
一方、100頭ほどは保護区外に住みついており密猟阻止が急務となっています。
ベンガルトラ
日本で見れるもう1種類のトラはインドを中心にバングラデシュやネパールなどアジアに生息するベンガルトラ。
他の種に比べて分布域がひろく全体数はおおいものの、絶滅のおそれがきわめて高い動物です。
1900年ごろ10万頭ものベンガルトラが暮らしていたインド。2006年には1400頭ほどに。保全活動のおかげで徐々にふえ、2018年に約3000頭と報告されました。
一方で、その他の地域に暮らすベンガルトラは非常にすくなく、バングラデシュ約100頭、ネパール約200頭、ブータン約30頭と報告されています。
いずれの国も密猟抑止に力をいれており、すこしずつ成果が出はじめています。
- Panthera tigris ssp. tigris
- IUCNレッドリスト 危機(EN)
- 生息 インド、バングラデシュなど 4000頭
- 体長 150~200cm
- 尾長 90cm
- 体高 100cm
- 体重 オス180kg メス120kg
最大のネコ|アムールトラとおなじ
ベンガルトラはかつてはアムールトラより小さいと思われていました。
しかし、生息地調査がすすむにつれ、実際のところアムールトラとベンガルトラの体格は同程度だとわかってきました。
オスは全長3メートル、体重180kg前後。
環境や食事等の影響により、体重は大きく変わるため、アムールトラとベンガルトラの大きさの大小は判断しにくいものです。
ベンガルトラは他のトラと比べて、縞の数がすくなく短い体毛がはえています。
トラの代名詞!ベンガルトラの闇
トラ全個体数の大半を占めるベンガルトラ。一般的に「トラ」と呼ばれるのはベンガルトラです。
かつてのずさんな管理の結果、飼育下ベンガルトラの多くはアムールトラの血が混ざっているといわれています。
純血のベンガルトラと証明できない個体は「ベンガル系トラ」と呼びます。日本動物園水族館協会(JAZA)では単に「トラ」と表記されています。
なぜ異種交配はだめなの?ベンガル系トラの未来
動物園では異なる亜種同士の繁殖(異種交配)がおこなわれています。
これは、亜種の分類がわからなかったために「偶然」起こったものと飼育動物を絶やさないために「意図的に」行ったものとあります。
トラに関しては、連れてきた場所がまったく異なるにもかかわらず繁殖させたことから、めずらしいトラをふやしたい、可愛い子トラで稼ぎたい等という意思を感じます。
トラの交雑種は繁殖能力をもつことから、人々はどんどん異種交配をすすめていました。
結果、飼育下において純粋なベンガルトラは非常にめずらしい存在となりました。
寿命におおきな影響はなく、子孫をのこせるトラの雑種。
では何が問題かというと、雑種では「種」をまもることができないことです。
仮に野生ベンガルトラが数十頭になり、何万頭という飼育下のベンガル系トラがいたとします。
ところがベンガル系トラとベンガルトラを繁殖させたり、ベンガル系トラを野生に送りだしたりしても、純粋なベンガルトラは増えません。
ただただベンガル系トラが増えつづけ、いずれはベンガルトラが絶滅してしまいます。
つまり、異種交配は野生動物を救うことはできないのです。
動物園は動物を見せるだけでなく、動物の種の保全に尽力しなければなりません。異種交配は本末転倒といえます。
いま純血があきらかなベンガルトラだけが繁殖対象となりつつあります。日本の動物園からベンガル系トラがいなくなる日はそう遠くないかもしれません。
しかし、もし!トラは2亜種説が正しかった場合、ベンガル系トラやアムールトラという区別はなくなります。飼育下のトラ繁殖がまたたく間にふえることでしょう。
野生より多い?!飼育下のベンガルトラ
限られた地域に、限られた種しか生息していないトラ。このような貴重な動物でさえ、世界中の施設で飼育されています。
しかし、本来単独行動を好み、広い行動範囲をもつトラ。
中国やアメリカは5000頭ものトラを所有しています。果たしてその環境は良いといえるのでしょうか?
タイのタイガーテンプルにおけるトラの虐待や違法取引のニュースは記憶に新しいでしょう。
トラだけではなく、不幸な動物をすくう動きは全世界でおこなわれています。
動物園へ出かけても生息地とかけ離れた展示場に複雑な気持ちを抱いてしまうことがあります。すべての動物に「エンリッチメント」動物福祉の対策がとりいれられることを願っています。
白いトラ!ホワイトタイガー
ホワイトタイガーとは体毛が白いベンガル(系)トラを指します。
亜種ではないため、日本動物園水族館協会(JAZA)は「トラ」と登録しています。
くわしくは「ホワイトタイガーとは?白いトラに隠された動物繁殖の真相」をご覧ください。
トラの見分け方【大きさ・毛・トラ柄】
日本で会える3亜種のトラのちがいと特徴
食費が嵩む大型肉食獣のトラ。1日におよそ4000円、年間100万円以上を必要だとか。
しかし幸運なことに、わたしたちは日本全国でトラに会うことができます。
ここまで3亜種のトラが日本にいることを説明しました。
ところが、どの亜種も黄褐色の体毛に黒色のしま模様で区別がつかない方もいることでしょう。
そこで、ここからは日本で会える3亜種のトラのちがいと特徴をまとめてお伝えします。
スマトラトラ|色が濃くて小さい
スマトラトラはしま模様が多くくっきりしているので、全体的に色が濃い印象。
体の毛は短いですが、頬の毛が長くオスはとくに顕著です。
体がベンガルトラやアムールトラより明らかに小さいため、比較的わかりやすい亜種です。
一方、アムールトラとベンガルトラは似ていますよね。
ベンガルトラとアムールトラの体格差はさほどありません。そこで「体毛の長さ」と「しま模様」を判別の鍵とします。
アムールトラ|毛深くて白毛が多い
寒い地域のアムールトラと暖かい地域のベンガルトラでは体毛の長さが異なります。
当然、冷気にたえるためアムールトラは毛深く進化しました。
また、生息地(積雪地帯)になじむようアムールトラは全体的に白い毛が多く、しまの色が薄い傾向にあります。
ベンガルトラ|短毛で縞がすくない
一方、ベンガルトラの体毛は短く、しまの数が少ないといわれています。
頭ではわかっていても、むずかしいトラの区別。さらに、雑種の多いベンガル(系)トラは非常に複雑です。
みなさんも動物園に行ったらトラの種類判断に挑戦してみてください。
トラの種類【まとめ】
- ヒョウ属トラ 1種9亜種 ※2亜種説あり
- 日本の動物園には3亜種
- アムールトラ
生息 ロシア極東周辺 400頭
特徴 大きい・毛深い・縞うすい - スマトラトラ
生息 インドネシア・スマトラ島 400頭
特徴 小さい・頬毛が長い・縞おおい - ベンガルトラ
生息 インド、バングラデシュ等 4000頭
特徴 大きい・短毛・縞すくない
- アムールトラ
さて、みなさんが思い描いたトラは「何」トラでしたか?
トラは生息地ごとに6亜種が現存しています。そのうち3亜種アムールトラ、ベンガルトラ、スマトラトラが日本でくらしています。
すべての亜種が絶滅危惧種であるトラ。彼らのすみかである国や地域は、生息地保全や保護、密猟抑止などの活動をおこなっています。
地球温暖化や森林伐採は節電・節水、ゴミ削減など簡単なことでふせぐことができます。自分にできることをつづけていきたいですね。
[広告]不要なものは買わないことが一番。必需品は売上の一部が寄付されるような商品を選ぶことで、自然や動物またはヒトをまもる活動につなげることができます。
さいわい日本では多くの動物園で希少動物トラに会うことができます。トラの模様や毛の長さ、種類にも注目して観察してみましょう!
飼育施設は別記事で紹介しています↓
以上、トラのお話でした。
【参考】
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可愛い
アラブ サナさん
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