ラッコの生態と特徴「毛づくろい」が日課の海のカワウソ
ラッコの種類・生活と体のしくみ/ラッコに会える水族館がわかる記事
ぷかぷか水に浮き、動物園というより水族館の人気者ラッコ。
しかし、ラッコの正体やその生活を知らない方が意外に多いのでは?
そこで今回のzoo zoo diaryはラッコの生態と特徴に注目します。
ラッコの群れや食事、繁殖から毛の秘密や藻・ウニとの関係などラッコのなぜなににお答えします。記事後半にはラッコに会える施設を掲載中。
のこり3頭となった日本のラッコ。ぜひ勉強してから会いに行ってみください。
ラッコとは?
ラッコは食肉目イタチ科。さらに細かくみるとカワウソ亜科に属します。
英語ではシーオッター【Sea Otter】海カワウソと呼ばれます。
- IUCNレッドリスト 危機(EN)
- ワシントン条約 附属書Ⅰ/Ⅱ
- 生息 北太平洋の岩場 12.5万頭
- 体長 150cm
- 体重 30kg
海にすむ大きなイタチ(カワウソ)
ラッコはアラスカ、カナダ、ロシアなど北太平洋に分布。岩場の多い海辺を好みます。
日本では北海道・霧多布岬など一部地域で確認されています。20頭ほどのラッコが暮らしているといわれています。
生息地のちがいから3亜種が確認されています。
- 食肉目 Carnivora
- イタチ科 Mustelidae
- ラッコ属 Enhydra
- ラッコ Enhydra lutris
- ロシアラッコ E. l. lutris
- キタラッコ E. l. kenyoni
- ミナミラッコ E. l. nereis
- ラッコ Enhydra lutris
- ラッコ属 Enhydra
- イタチ科 Mustelidae
頭部は白っぽく見えますが、全体的に濃い茶色や灰色です。
ラッコは頭から尾までの長さ約1.5メートル、体重30kg以上。オオカワウソとともにイタチ科で最も大きな種とされます。
ふわふわの毛、そして陸地にあがることの少ないラッコ。見た目もすむ場所もちがうため、ラッコがカワウソだと気付いていない方がおおいかもしれません。
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ラッコは絶滅の危機にひんしています
ラッコの生息数は減りつづけ、絶滅のおそれがきわめて高い状態(IUCNレッドリスト危機)です。現在は推定12~13万頭。その80%以上がアラスカに生息しています。
天敵(シャチやサメ等)の増加や石油流出による海水汚染、毛皮目的の狩猟などがラッコを苦しめています。
ここ20年間で千島列島およびカムチャッカ半島のラッコは半数以下に。
現在のところ、その理由は確定されていません。食糧難や感染症などいくつもの原因が重なったのではといわれています。
ラッコの種類【3つ】生息地のちがい
北太平洋に生息するラッコ。分布域がひろいため生息地による違いがあります。
現在、3亜種に分類されています。
ロシアラッコ
- 千島列島からカムチャッカ半島、コマンドルスキー諸島
- 1.5万頭
キタラッコ
- アリューシャン列島から太平洋岸カナダとオレゴン州
- 10万頭
ミナミラッコ
- アメリカ・カリフォルニア中央部
- 3千頭
- ちいさい
野生ラッコの80%以上はアラスカに生息しています。
ロシアラッコは1~2万頭、カリフォルニアに生息するミナミラッコは3千頭ほどしかいません。
ラッコはワシントン条約で国際取引が制限されています。なかでもミナミラッコは学術目的の取引以外は禁止されています。
ラッコの生活|海と藻とウニと
水が好きなカワウソですが、ラッコはカワウソのなかで唯一完全な「海生動物」交尾から子育て、睡眠まですべての行為を海の上でおこないます。
ラッコの後あしは「ひれ」のように平たく進化。潜水時に活躍するぶん、地上を移動するのは不得意となりました。そのため、ほとんど上陸しません。
一方、捕獲のおそれがなくラッコがたくさんいる地域では陸地にあがる姿が確認されています。
ゆる~いラッコの群れ
ラッコは数十頭の群れをつくり、通常、雌雄は別々に行動しています。
オスのみが縄張りをもちます。しかし、他のカワウソのような分泌腺はなくパトロールして敷地をアピールします。
一方、メスは自由にオスのテリトリーを移動することができます。
基本的になわばり意識が強いカワウソ。ラッコは広い海に住んでいるからこそ、ゆるい関係が保たれているのかもしれませんね。
藻があるところにラッコあり!
ラッコは休息するとき、ジャイアントケルプ(オオウキモ)という海藻に自分の体を巻きつけて、流されないよう工夫しています。
親ラッコが狩りに出るときは、海藻で子ラッコを固定します。子が潮に流されて迷子にならないためです。
つまり、ラッコが生きていくには藻が必要不可欠。多くの地域でジャイアントケルプとラッコの分布は重なっています。
海にいるのに泳ぎは苦手?!
ラッコは水深40メートルまで潜ることができます。オスはさらに深く潜水できます。
ところが、ラッコは泳ぎが得意ではありません。そのため、泳ぎまわる魚を捕るのは苦手。
水中でしか生活しないというのに、とても不思議。潜水と水泳は別物なんですね。
ウニが大好き!ラッコの狩り
イタチのなかまであるカワウソはよく食べる動物として知られています。また、寒冷地にすむ動物が体温を維持するためには、たくさん食べなければなりません。
ラッコはたくさん食べます!
さて、カワウソであり寒冷地の動物であるラッコはというと、体重の3分の1(約10kg)もの食事をとります。
60kgのヒトの場合、20kgの食事量!体重100kgを優に超える動物園のトラでさえ1日10kgも食べないことからも、ラッコが大食漢であることがわかります。
狩りは早朝と夜間におこないます。
おもに貝類や甲殻類を好みますが、ヒトデやイカ等さまざまな海洋生物を獲ります。
なかでも野生ラッコの大好物はウニ。
棘皮動物であるウニは海藻を食べます。ウニが大量増殖するとジャイアントケルプは食べ尽くされてしまいます。
それを防ぐ存在がラッコです。ラッコは自らのすみかを守るために、ウニを食べているのかもしれませんね。
ラッコは賢い!歯と道具をつかって殻をわります
ラッコは水中でエサを捕らえたら水面まであがります。
そして、歯で嚙みくだく、もしくはおなかに乗せた石などを使い殻をわります。
カワウソのなかまは噛む力がつよく強靭な歯も生えています。
とくにラッコは体も大きいため、見た目の可愛さからは想像できないほど立派な歯!貝の殻に穴を開けたり噛み砕いたりできるのも納得です。
また、野生ラッコは岸壁や船体、飼育下ラッコは壁やガラスなどを利用するようすも確認されています。
霊長類以外で採食に道具をつかうのは非常に稀。ラッコはとても賢い動物なのです。
ラッコの石のかくし場所とは?
前述したように、ラッコはエサを食べるときに石を使います。
さて、その石はどこからやってくるのでしょう?
まさかの「脇」から出てきます!
ラッコは気に入った石を見つけたら、皮ふのたるんだ部分に隠す習性があります。
食事の時間にこそっと取りだし、おなかの上にテーブルのように乗せるのです。
地域によっては陸地に置き場所をつくっているラッコも観察されています。
ラッコの石は殻割りのときだけでなく、潜水の重りとしても利用されていると考えられています。
ラッコにとって自分の石はパートナー。とても大切にしています。
【YouTube】BBCで野生ラッコの様子をチェック!
ラッコの繁殖と寿命
縄張りをもたないメスは発情がはじまると、自らオスのもとへ移動します。
ラッコは海上で交尾をします。その間からだが離れないように、オスラッコはメスラッコの鼻をかみつづけなければなりません。
ラッコは着床遅延が起こるため、見かけ上の妊娠期間は比較的長め。野生では5~6月ごろに出産のピークを迎えます。
※着床:受精のあと胚が子宮内に定着し発育を始めること
※着床遅延:受精後すぐに着床せず、一定期間もしくは条件が整ったのちに着床すること
一般にカワウソのなかまは1度に複数頭生みますが、ラッコが1度に生む子は1頭のみです。
おなかの上で育つラッコの赤ちゃん
ラッコの育児は母親のみ。
背を下にしてぷかぷか浮かぶラッコの子育ては、おなかの上でおこなわれます。広い海のなかでも、おなかに赤ちゃんを乗せておけば迷子になる心配はありません。
狩りのとき、母親は子ラッコに藻をまきつけ、流されないように固定してから出かけます。この間、赤ちゃんはじっと母親の帰りを待ちつづけます。
過酷!ラッコの子育ては命がけ
授乳期間は6か月ほど。ラッコの乳首は下腹部にあるため、子ラッコはおしりを母親の顔にむけてお乳を飲みます。
赤ちゃんラッコは生後数週間で固形物を食べはじめますが、母乳なしでは成育できません。
十分な母乳をつくるため、子をもつ母ラッコはより多く狩りをし、より多く食べる必要があります。
しかしながら、常にエネルギーを満たすことは困難。栄養不足で亡くなったラッコがしばしば確認されています。
また、空からはワシなど、海からはシャチやサメ、オスのラッコ等に狙われる赤ちゃんラッコ。母ラッコは常に周囲を警戒しなければなりません。
平穏そうに見えるラッコですが、自分のいのちと子のいのちを守るため過酷な日々を送っています。
赤ちゃんラッコの毛はおとなの毛と違います
ラッコの赤ちゃんは明るい茶色のもふもふ、まるでぬいぐるみのよう。成獣よりも密度が高い毛がはえ、沈むことはありません。
およそ3か月でおとなと同じ毛に生え変わります。すると、潜水ができるようになります。
また、ラッコは成長とともに頭から胸の毛が白くなっていきます。
15年以上!ラッコの寿命
ラッコの性成熟はおそく、5歳ごろと考えられています。
しかし、オスが実際に繁殖をはじめるのは、その数年後のことが多いという報告もあります。
野生ラッコの寿命は15年~20年。飼育下では30年近く生きた個体も確認されています。
海から空から狙われる!ラッコの天敵
海にすむラッコの天敵はシャチやホホジロザメ。空からはワシなどの猛禽類に狙われます。
とくに母親が狩りに出ている間、無防備な子ラッコが捕食されることは少なくありません。
また、寄生虫により病死したり漁の網にかかって溺れたり。ラッコは幼獣だけでなく成獣の死亡率も高いといわれています。
ラッコの天敵はラッコ?!
実は、子どもやメスのラッコはオスのラッコが原因で亡くなることがあります。
ラッコにかぎらず野生動物にとって子孫をのこすことは最大の目的といえます。
オスにとって赤ちゃんラッコはメスの発情をさまたげる存在。メスと交尾をするために赤ちゃんを殺すことがあります。
子殺しと呼ばれる行為はライオンやゴリラなど多くの野生動物でみられ、珍しいことではありません。
さらに、交尾中に鼻をかまれるメスラッコ。ひどい傷となり出血多量や感染症により亡くなる場合があります。
ときにはメス同士でエサを奪いあい、母子ともに栄養不足になり衰弱死する例も確認されています。
ぷかぷかのんびりとしたイメージのラッコですが、メスは交尾のときも子育てのときも命の危険と戦っているのです。
ラッコの冷え対策|毛の秘密
水温10度以下という冷たい海の中に生息するラッコ。
ところが、寒さをしのぐ脂肪はついていません。
では、いったいなぜラッコは寒さに耐えることができるのでしょうか?
世界でいちばん毛深い動物
ラッコは脂肪の代わりに「動物一」といわれている極めて密度の高い体毛がはえています。
おかげで、海に潜っても皮ふが濡れることはありません。
冷たい水面で生きぬくために進化したラッコの毛。現代ではラッコを絶滅へ追いやる要因となっています。
なぜなら、ヒトが温かさと美しさを兼ねそなえるラッコの毛を求めるから。乱獲のため、数十万頭いたラッコがあっという間に数千頭にまで減りました。
狩猟が禁止されている現在もなお、ラッコの毛皮の密猟・密輸がおこなわれています。
毛づくろいはラッコの生命線?!
海上で生きぬくために毛をふやした結果、ラッコは毛づくろいに多くの時間を費やすことになりました。
ラッコは体をくねくねと動かしながら全身をくまなく毛づくろいします。清潔に保たなければ本来の毛がもつ能力を発揮しきれないのです。
なかには、1日6時間ほどかけて毛づくろいする個体も確認されています。
保温力と浮力を高める効果があります
毛づくろいをすると毛と毛の間に空気が取りこまれます。ときには息を吹きいれ、密集した毛の間に空気の層をつくります。
すると、ダウンジャケットのようにふわふわ暖かく、浮き輪のようにぷかぷか浮くことができます。
ラッコが体温を保てる本当の理由は「密度の高い毛」のおかげではなく、この「空気層」のおかげかもしれません。
可愛いだけじゃない!ラッコのバンザイ
ラッコは前あしを水面から出し「バンザイ」のような格好をしていることがあります。
これは、毛が生えていない部分(てのひら)を海の中に浸けたままだと冷えてしまうから。目や耳にてのひらを当てるのもおなじ理由と考えられています。
また、複数頭のラッコが「てをつなぐ」行為は冷え対策だけでなく、なかまや親とはぐれるリスクを避ける目的もあります。
見る人を笑顔にする、ラッコの愛くるしい姿です。
2か所「3頭」だけ!ラッコに会える施設
多くの水族館で展示され、日本に100頭以上いたラッコ。繁殖能力の低下とともに、その数は減りつづけています。
2023年1月現在、日本で会えるラッコは3頭のみです。
鳥羽水族館
- メイ(2004年生)
- キラ(2008年生)
マリンワールド海の中道
- リロ(2007年生)
リロは繁殖能力があるかもしれませんが、キラは妹なので交配できません。また、メイは高齢となってきたため妊娠は期待できません。
つまり、今後あたらしいラッコが来ないかぎり、日本の水族館でラッコが生まれることはありません。
かつては一大生息地であるアラスカを有するアメリカからラッコが輸入されていました。
しかし、絶滅の危険性や保全意識が高まった近年、取引はおこなわれていません。
ラッコに会えなくなる日はもうすぐです。
ラッコの過去と未来
ラッコはロシアからアラスカ、カナダなどの北太平洋から北海道やメキシコのバハ・カリフォルニア半島まで広く分布していました。
生息数は15~30万頭でした。
密猟や海洋汚染に苦しんでいます
1780年ごろからラッコの毛皮目的の狩猟が活発化し、生息数は急激に減少。一時は数千頭にまで落ち込みました。
1911年、国際的な毛皮取引条約が施行されラッコ猟は禁止されました。
ところが、他の絶滅危惧動物とおなじように密猟が未だにおこなわれています。
近年は、油による海洋汚染がラッコの最大の脅威。
油が付いた毛は機能を発揮できず、低体温症をまねきます。
さらに、毛づくろいのときにラッコが油を飲んでしまうため、胃腸障害など体調不良におちいることもあります。
絶滅する可能性がとても高い動物です
現在、ラッコの推定生息数は12~13万頭。全体として減少傾向であり、絶滅のおそれが極めて高い状態です。
わたしたちヒトは200年以上前からラッコの生活を苦しめいています。
不法投棄や採掘等を規制できる保護区の制定・維持がラッコ保全の大きな鍵となっています。
ひとりひとりが水をよごさない生活をこころがけることで水生生物は救われます。川や海のごみを拾う、生分解性の商品を選ぶなど、自分にできることを続けましょう!
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最大のイタチ、ラッコ。
海のカワウソ【Sea Otter】と名付けられるように、カワウソとの共通点がたくさん見つかることでしょう。
ラッコが「もっとも毛深い動物」ということは、よく知られているかもしれません。
しかし、ラッコとウニと藻の関係や実は泳げないこと、石を大切にすること、バンザイの理由など、知れば知るほどおもしろく、そして可愛らしい動物です。
ラッコにしかない特徴や生態をぜひ実際に観察してみましょう!
以上、ラッコの豆知識でした。
【参考】
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