キノボリカンガルー【生態と特徴】ズーラシアに2頭います
カンガルーの住みかといえば?
草原や乾燥地帯が思いつくかもしれません。
しかし、世の中には森のなか、木の上で暮らすカンガルーがいます。その名も「キノボリカンガルー」です。
今回のzoo zoo diaryは知られてないけどとっても魅力的な動物キノボリカンガルーを特集!
日本では唯一、神奈川県・よこはま動物園ズーラシアで飼育されています。
キノボリカンガルーの生態や特徴を予習してズーラシアに会いに行きましょう!
キノボリカンガルーとは?
双前歯目(カンガルー目)カンガルー科キノボリカンガルー属。
その名の通り、木の上で生活するキノボリカンガルー。英語ではツリーカンガルー【Tree Kangaroo】と呼びます。
一般的にカンガルーは後ろあしでぴょんぴょん跳ねるように移動しますが、キノボリカンガルーは例外です。
みじかく筋肉質な前あしをつかって不安定な木の上を上手に移動します。
ニューギニア島の山林に生息
オーストラリアの一部およびオーストラリア大陸の北に浮かぶニューギニア島に生息しています。
ニューギニア島はパプア島、イリアン島ともよばれる大きな島(日本の国土の約2倍)。東側はパプアニューギニア、西側はインドネシアに属します。
キノボリカンガルーは熱帯林を好み、主食は葉です。
標高の低いところでは密猟により激減、なかには絶滅した地域もあります。
14種|キノボリカンガルーの種類
14種のキノボリカンガルーが現存しています(諸説あり)。
- カンガルー目 Diprotodontia
- カンガルー科 Macropodidae
- キノボリカンガルー属 Dendrolagus
- D. spadix
- D. dorianus
- D. matschiei
- D. goodfellowi
- D. scottae
- D. ursinus
- D. mayri
- D. stellarum
- D. inustus
- D. bennettianus
- D. lumholtzi
- D. pulcherrimus
- D. mbaiso
- D. notatus
- キノボリカンガルー属 Dendrolagus
- カンガルー科 Macropodidae
14のキノボリカンガルーのうち、オーストラリア・クイーンズランド州北部に生息する2種(D. bennettianusおよびD. lumholtzi)はIUCNレッドリスト準絶滅危惧(NT)。
その他ニューギニア島に生息する12の種はすべて絶滅のおそれが高いと評価されています。
なかでもインドネシア側にあるウォンディウォイ山地で発見されたウォンディウォイキノボリカンガルー(D. mayri)は生息数50頭未満。
1928年に1頭確認されたのみで、絶滅している可能性が高いといわれていました。
しかし、2018年イギリス人ひきいる探検隊がウォンディウォイキノボリカンガルーと思われる写真撮影に成功。
このように、キノボリカンガルーの大多数がヒトの踏み入れられない樹海で生きつづけていると考えられています。
日本にはセスジキノボリカンガルーがいます
14のキノボリカンガルーのうち、日本(よこはま動物園ズーラシア)ではセスジキノボリカンガルー(Dendrolagus goodfellowi)を飼育しています。
名前の由来は背に茶色の筋があること。また尾は輪模様がはいっています。
セスジキノボリカンガルーはここ30年で半減。絶滅のおそれがきわめて高い動物(IUCNレッドリスト危機)です。
ちなみにアメリカの動物園ではアカキノボリカンガルー(Dendrolagus matschiei)を飼育。わたしが撮影したキノボリカンガルーはすべてアカキノボリカンガルーです。
全体は赤茶色ですが四肢や顔はクリーム色をしています。
アカキノボリカンガルーは繁殖可能な個体が2500頭以下。おなじくIUCNレッドリスト危機と評価されています。
キノボリカンガルーが絶滅しそうな理由
キノボリカンガルーは遠いむかしから食肉として狩猟されてきました。
かつては森林も豊かでキノボリカンガルーと先住民のバランスが保たれていました。
開拓と狩猟
しかし、入植者による開拓で森が農地や宅地へかわり、キノボリカンガルーたちは減少。さらに人口が増えたことにより食肉需要が増し、狩猟がふえました。
結果、たくさんのキノボリカンガルーたちが殺され、絶滅の危機へと追いやられてしまいました。
オーストラリアやニューギニア島の一部地域では、キノボリカンガルーの保全や教育がすすみ、狩猟の被害はほぼなくなっています。
一方で、保全団体の力が及ばない地域ではいまもなお無秩序な開拓や狩猟がおこなわれています。
木材用の森林伐採にくわえ、コーヒーやアブラヤシのプランテーションも大きな問題です。
気候変動
エアコンで温度調整ができるヒトとちがい、自然のなかにいきる野生動物たちは気候変動の影響をじかに受けます。
地球気温の上昇は長期間の干ばつ、森林火災につながります。
ニューギニア島東部では1997年エルニーニョ現象による大規模な自然火災が発生。結果的にたくさんの野生動物が亡くなりました。
また、二酸化炭素濃度上昇にともない植物の成長に欠かせない窒素濃度がさがったり、強烈なサイクロンが発生したり、高温の日がふえ霧(水分)がへったり。
気候変動が原因と思われるさまざまな事象が発生し、森の質が落ちています。
キノボリカンガルーの生態と特徴
野生キノボリカンガルーは発見がむずかしく、研究がすすんでいない動物。
一般に夜行性といわれますが、日中も断続的に活動しています。
主食は木の枝葉やつる植物の葉。エサへのこだわりが強いといわれています。
基本的には樹上生活。
木登りのために前あしの筋肉が発達しています。
さらに、体に似合わない大きな手がキノボリカンガルーの特徴。器用に動かせるゆびには、長い爪が生えています。
前あしとゆびの筋力、そして滑り止めの爪を利用して、やすやすと木に登ることができます。
一方で種によっては地上を好むものもいると確認されています。
野生では群れる場合がありますが、適当なパーソナルスペースを保っています。動物園では単独飼育されることが一般的です。
繁殖は1年に1回。母親は1頭の子を出産します。子は超未熟児の状態で誕生し、8~10か月もの間おなかのなか(育児嚢)で成長します。
キノボリカンガルーの生態と特徴は飼育下個体の観察によるものがおおく、野生キノボリカンガルーの実態はいまだ謎につつまれています。
ズーラシアだけ!キノボリカンガルー飼育中
神奈川県・よこはま動物園ズーラシアは日本で唯一キノボリカンガルーを飼育・展示している動物園です。
2022年10月現在、メスの「タニ」とオスの「モアラ」2頭のセスジキノボリカンガルーがいます。
背中に白い筋が2本、尾には輪模様が入っています。
タニは2006年オーストラリアで生まれ、2013年に来園。モアラは2013年シンガポールで生まれ、タニの繁殖相手として2016年にやってきました。
2020年12月、ドイツの動物園よりメスのジャヤ・メイが来園。
日本でのキノボリカンガルー繁殖に期待が寄せられていましたが、2021年6月、ジャヤ・メイが亡くなりました。
日本でキノボリカンガルーが見れなくなる日はそう遠くないかもしれません。
知られていないけど可愛い動物キノボリカンガルーにぜひ会いに行ってみてください。
以上、キノボリカンガルーのお話でした。
【参考】
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