ジャイアントパンダ繁殖がむずかしい理由がわかる記事
世界三大珍獣として知られているジャイアントパンダ。
中国では国家一級重点保護野生動物に指定され「中国三大珍獣」と称されています。
近年日本では、上野動物園とアドベンチャーワールドでジャイアントパンダ誕生があいつぎ、動物園ニュースの2大トップとなっています。
動物の赤ちゃん誕生はしばしば見聞きします。一方で、その成長を毎週、毎月のようにテレビでとりあげることはあまりありませんよね。
しかし、ジャイアントパンダにいたっては誕生から成長まで逐一報道されています。
なぜパンダの誕生はこれほどまでに注目されるのでしょうか?
可愛いから、だけではない特別な理由があります。
知られざるジャイアントパンダの繁殖を学び、赤ちゃんパンダに会いに行きましょう!
ジャイアントパンダの繁殖
通常、単独生活を送るジャイアントパンダ。春、声やにおいを頼りにオスとメスが出会う季節です。
ジャイアントパンダは4~8歳で性成熟を迎えます。そして、20歳前後まで繁殖できると考えられています。
妊娠・育児中は発情がとまるためパンダの妊娠間隔は2~3年。生涯に生む子の数は6頭ほどです。
超みじかい!パンダの発情期
メスのジャイアントパンダの発情期は非常に短く1年のうち長くて数週間。
そして、妊娠可能な期間である発情のピークは数日のみとわかっています。
オスパンダたちは広大な山林の中、発情しているメスの居場所をつきとめることができます。ときには複数のオスが同じメスのもとにひきよせられます。
穏やかなイメージのパンダですが繁殖期のオスは獰猛。激しい争いに勝ったものだけがメスと交尾できます。
お互いのにおいを嗅いだり鳴き交わしたりして、オスとメスは意思疎通をおこないます。
パンダのコミュニケーションにおいて「におい」は非常に重要なツール。
マーキングのできない環境では繁殖がさまたげられてしまいます。
そのため、においを残せない飼育下のパンダは繁殖能力が乏しいと考えられています。
偽妊娠とは?
偽妊娠とは「実際には妊娠していないのに妊娠中のように体や行動の変化が起きる」こと。
ジャイアントパンダの偽妊娠はとくに珍しいことではありません。
交尾のあとに起こる偽妊娠は出産の時期になるまで真偽の判断はむずかしいといわれています。
上野動物園シンシンの場合
東京都・上野動物園のシンシン(2005年生)はリーリー(2005年生)の子を3度出産しています。
2012年、第1子が誕生。しかし、生後6日で死亡が確認されました。
翌2013年の交尾は偽妊娠という結果に終わりました。
シンシンの偽妊娠以来、リーリーとシンシンの間に交尾は確認されませんでした。シンシンの発情が弱かったためです。
2017年、ついにシンシンの発情のピークが確認され交尾を確認。なんと4年ぶりの交尾でした。
パンダの巣|出産の準備
通常、クマのなかまは巣作りをおこない出産にそなえます。
クマの赤ちゃんは小さく生まれ成長がゆるやかです。そのため、外敵や自然の脅威から身を守る環境を必要とします。
パンダも同様、妊娠したら巣をつくります。そして、およそ5か月の妊娠期間を経て出産します。
パンダの赤ちゃんは特に小さく、母親の体重の1/1000ほどの体重しかないこともあります。超未熟児の子を育てるには巣の質や場所が重要となってきます。
雨風や寒さをしのげることはもちろん、水場が近いことも大切。母親は水を飲むたびに赤ちゃんをのこして出かけなければならないからです。
生後100日ごろまで、赤ちゃんパンダが巣の中から出ることはありません。その間、母パンダもほとんどの時間を育児に費やしています。
かよわいパンダの赤ちゃん
ジャイアントパンダの繁殖の困難は妊娠だけではありません。
リーリーとシンシンの第1子のように、パンダの赤ちゃんは生後間もなく亡くなる例が多々あります。
200グラム以下!超未熟児
パンダの妊娠期間はおよそ5か月。
体重100kgのおとなに対してジャイアントパンダの赤ちゃんは200グラム以下。未熟児の状態で誕生します。
体の機能が完成しておらず、非常に不安定な状態で母親のおなかから出てきます。そのため、体温調節や排泄など母親の手助けが必ず必要となります。
完全に目が開くのは生後2か月。そして、生後3か月ごろにやっと動けるようになります。
ジャイアントパンダは生後8か月ごろまで母乳を飲みます。その後、徐々に竹を食べるようになります。
1歳半~2歳になると親離れし、母子ともに単独生活をおくります。
育てるのは1子のみ?!
ジャイアントパンダは半分の確率で双子が生まれます。
しかし、母親は1頭しか育てません。2頭を育てるのに十分な母乳や栄養をそなえていないからです。
通常双子が生まれたら、より健常な1頭のみ世話をします。結果、のこりの1頭は衰弱死してしまいます。
また、あまりに小さい物体をわが子と認識できない母パンダもいます。
そのため、赤ちゃんパンダは母親に育児放棄されたり踏みつぶされたり。死亡することが多いといわれます。
野生ジャイアントパンダの子の生存率は非常に低く、初産では7割ほどが生後1週間以内に命を落とすと考えられています。
一方で、パンダ研究や医療技術がすすむにつれ、飼育下の繁殖成功率は大幅に改善しています。
双子の場合、1頭は母親が、もう1頭はヒトが育児します。頃合いを見て子をいれかえる手法により、双子も順調に生育できることが証明できています。
飼育下のジャイアントパンダ繁殖
極めてめずらしく可愛らしいジャイアントパンダ。
動物園でもジャイアントパンダ繁殖を期待しますが、なかなかうまくいきません。ゆえに、かつてパンダは繁殖に関心がないという誤った見識が浸透していました。
しかしながら、野生パンダの繁殖活動に何ら問題はありません。それどころか、意外にも繁殖能力は高いことが報告されました。
野生パンダの研究がすすむにしたがい、パンダの飼育環境がみなおされています。
結果として、飼育下での自然交配が観察されパンダの繁殖成功率が飛躍的に伸びています。
パンダの保護と人工繁殖
一時、生息数が1000頭ほどに落ち込んだジャイアントパンダ。
危機的状況を打破するために、中国ではジャイアントパンダの保護活動が行われています。孤児やケガなどにより衰弱したパンダが対象です。
保護されたパンダの中には繁殖に成功する個体もいます。
2015年には、およそ1800頭の野生パンダが確認されました。
成都ジャイアントパンダ繁殖基地では、遺伝子管理が行われており人工授精に成功しています。
また、育児技術の研究により、パンダの出産率だけでなく生存率の上昇にも大きく貢献しています。
16頭の父エイメイ|アドベンチャーワールド
たくさんのパンダが見れることで有名な、和歌山県のアドベンチャーワールド。
2020年までにジャイアントパンダが17頭誕生しています。中国につぐ世界2位の繁殖数です!
しかも、このうち16頭の父親はエイメイです。
世界最高齢の繁殖パンダです!
新鮮な竹からより美味しい部分だけを食べるという「食」へのこだわりが強いエイメイ。
性格は穏やか。メスの発情期にも優しく接するジェントルマン。
そのため、メスの抵抗を受けることが少なく、自然交配に何度も成功しています。
魅力的で繁殖能力が高い、文句なしのオス!
そんな理想のオスパンダ、エイメイは1992年生まれ。
野生ジャイアントパンダは寿命20年ほど。
ジャイアントパンダ界でエイメイはかなりのご高齢。世界最高齢の繁殖成功パンダとして、自身で3度も記録をぬりかえています。
飼育下では、2020年に死亡した中国・重慶動物園のシンシン(新星)が世界最高齢38歳でした。ちなみにシンシンはリーリーの祖母にあたります。
世界に誇るスーパースターパンダであるエイメイ。
今後、エイメイのように高齢になっても繁殖できるジャイアントパンダが現れるとは限りません。
2023年2月、エイメイは娘(オウヒン、トウヒン)とともに中国・成都ジャイアントパンダ繁育研究基地に返還されました。
生きる伝説「エイメイ」これからも健康に長生きしてほしいですね。
パンダの赤ちゃんに会える動物園
2017年から2021年までに、日本で5頭のジャイアントパンダが誕生しました。
シャンシャン(香香)上野動物園
2017年6月12日東京都・上野動物園生まれ。メス。
2012年の第1子出産(その後まもなく死亡)以来、5年ぶりとなるシンシンの出産でした。シャンシャンはすくすく成長し日本中に大きな喜びをもたらしました。
2018年12月に1歳半を迎えたシャンシャンは母親シンシンとの別居が完了しています。
当初はシャンシャンが2歳になったら中国に返還する決まりでした。
しかし、日本からの要望により延長。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックにより延長となっていました。
ついに2023年2月、シャンシャンは中国・成都ジャイアントパンダ繁育研究基地へと送られました。
シャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)上野動物園
2021年6月23日 東京都・上野動物園生まれ。
双子の子はシャオシャオ(オス)、レイレイ(メス)と名付けられました。
一般にジャイアントパンダが双子を出産した場合、母親は生育のよい1頭しか育てることができません。
そのため、飼育下では2頭の子をひきはなし、1頭を母親、1頭をヒトの手で育てます。しばらくしたら子をいれかえます。
この行為を繰りかえすことにより、2頭とも母親の愛情を受け、かつ健康管理がゆきとどいた状態で生育することができます。
順調にいけば、数か月後には母親のもとに双子がもどされます。すると母親が2頭をわが子と認識し、2頭同時の育児に取り組むようになります。
シャオシャオとレイレイはすくすくと成長し、10月からはシンシンとともに3頭で過ごしています。
2023年2月現在、父リーリーと母子3頭は西園・パンダのもりで展示中。観覧列に並ぶとジャイアントパンダに会うことができます。
サイヒン(彩浜)アドベンチャーワールド
2018年8月14日和歌山県・アドベンチャーワールド生まれ。メス。
さきほど紹介したエイメイと 2番目の奥さんであるラウヒン(良浜) の9番目の子。
母親の愛情を受け、すくすくと成長したサイヒン。
2023年2月現在、ブリーディングセンターにて展示されています。
フウヒン(楓浜)アドベンチャーワールド
2020年11月22日和歌山県・アドベンチャーワールド生まれ。メス。
2023年2月現在、ブリーディングセンターにて展示されています。
ジャイアントパンダの繁殖がどれほど大変か、赤ちゃんパンダがどれほど貴重か、おわかりいただけたでしょうか?
メスの発情期の短さ、生まれてくる赤ちゃんの未熟さ。1頭の子パンダが誕生・成長するには、数々の困難が待ちうけています。
日本ではジャイアントパンダのおめでたいニュースが続いています。
いずれ中国に送られるパンダの赤ちゃんたち。日本にいる間にぜひ会いに行きましょう!
ジャイアントパンダをもっとくわしく知りたい方は「パンダはなぜ竹を食べるの?ジャイアントパンダの生態と特徴が明らかに」をご覧ください。
以上、ジャイアントパンダの繁殖のお話でした。
【参考】
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