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ヤブイヌに会える動物園・ヤブイヌの生態と特徴まとめ

12/23/2022

野生のイヌといえば?

オオカミやキツネを想像する方が多いかもしれません。

いかにも野生のイヌといった名前をもつ「ヤブイヌ」と答える方はきっと少数派。でもヤブイヌはとても可愛らしい魅力のつまった動物です。

そこで今回の記事はイヌのなかまヤブイヌを特集!

ヤブイヌの生態と特徴からヤブイヌを飼育している動物園まで、ヤブイヌ情報をおとどけします。

平川動物公園 ヤブイヌ ウキョウ サキョウ

ヤブイヌとは?

食肉目イヌ科ヤブイヌ属。イヌやネコの原始的な祖先にちかい動物といわれています。

南米にすむ泳ぎがうまいイヌ【生息地】

北はパナマから南はアルゼンチン東北部まで、南アメリカ大陸にひろく生息するヤブイヌ。とくに水辺にちかい森林や草原をこのみます。

ヤブイヌはゆびの間に水かきがあり、泥に埋もれることはありません。一般に肉食動物がさける洪水のおそれがある場所にもすみつくことができます。

ブッシュドッグ【Bush Dog】やサバンナドッグ【Savannah Dog】酢のにおいがすることからビネガードッグ【Vinegar Dog】の名でも知られています。

  • Speothos venaticus
  • IUCNレッドリスト 準絶滅危惧(NT)
  • CITES(ワシントン条約) 附属書Ⅰ
  • 生息地 南アメリカ大陸
  • 体長 65cm
  • 尾長 10cm
  • 体高 25cm
  • 体重 6kg

胴長短足のイタチのようなイヌ【形態】

体高は25cmほどと小型犬サイズですが、体長は60cm、体重6kg以上と胴長でずっしりとした体格です。10~15cmのみじかい尾が生えています。

体毛の色は赤褐色。四肢は黒っぽく、首周りは白っぽい色をしています。

野生イヌのなかまでは四肢がみじかい異質の存在。環境と生活が似ているからか、カワウソやアナグマなどイタチ科動物のような外見のイヌです。

平川動物公園 ヤブイヌ サキョウ

ヤブイヌの暮らし【生態】

ヤブイヌはひろく分布していますが、発見がとてもむずかしく現地でもめずらしい動物です。

一時は絶滅した動物だと思われていたほど見つからないため、生態に関する実地調査はあまりすすんでいません。

両親と子からなる10頭ほどの群れで暮らしています。狩りや育児を協力しておこなう社会性のある動物です。

よく鼻をならしてコミュニケーションをとっており、動物園でもキューキュー、フンフンと高い鳴き声が聞こえてきます。

一方で最近の調査では、単独で暮らすものも多いとわかってきました。

ヤブイヌは昼夜ともに動くすがたが確認され、休むときは巣穴や木のうろ(洞)などで丸まっています。

ヤブイヌの特技は「泳ぎ」

特技は泳ぎ。ゆびの間には水かきがあります。

ヤブイヌの生息地は雨の量がおおく、低地ではしばしば洪水がおこります。

そんなときでも、ぬかるみや水中で問題なく身動きをとれるヤブイヌ。動物種のおおい南米でながく生き抜いている由縁です。

動物園はヤブイヌの生態にならってプールをもうけています。運が良ければ泳ぐすがたを見れるかもしれませんね。

お肉を食べる肉食動物です

可愛らしい外見にはんしてヤブイヌは肉食動物。

ブラジルの湿原にすむヤブイヌはアルマジロを、パラグアイの森林にすむヤブイヌはアグーチやパカ等げっ歯目の動物をよく食べています。

いずれもエサの大部分は動物の肉です。

一方でブラジルにある繁殖センターのヤブイヌはバナナやパパイヤ等の果物と肉を同程度食べることがわかっています。

このようにヤブイヌの食事内容は生息環境によってことなります。

動物園では馬肉や鶏肉を与えています。

賢い!ヤブイヌの狩り

群れで暮らすヤブイヌは協力して狩りをおこないます。

メンバーを2組にわけ、1つは獲物を追いやる、もう1つはそれを待ち伏せるという「はさみうち作戦」

獲物が水へ逃げ込んでも、水中や水辺でヤブイヌがはりこんでいるため逃げ場はありません。

アルマジロの狩りは「穴掘り作戦」

するどい爪で巣穴をかきみだし、獲物が出てきたところを捕らえます。

群れの方が効率はよいかもしれませんが、単独でも食にありつける賢い動物です。

黒い赤ちゃん|ヤブイヌの繁殖

ヤブイヌの繁殖期は季節とは関係ありません。妊娠期間は70日ほど、1度に4頭ほどの子を出産します。

赤ちゃんは全身黒色、外敵に見つかりにくいといわれています。

ヤブイヌの寿命 およそ10年

ヤブイヌの寿命は飼育下で10年ほど。野生下の寿命ははっきりとわかっていません。

埼玉県こども動物自然公園にて2020年に亡くなったオス「ユウタ」は15歳と、とても長生きでした。

将来ヤブイヌは絶滅するかもしれません

ヤブイヌは将来、絶滅のおそれがある動物(IUCNレッドリスト準絶滅危惧)です。

ひろい分布域をもち、さまざまな環境に生息しているにもかかわらず、ヤブイヌの目撃証言はほとんどありません。

カメラトラップにも映らず、調査のむずかしい動物です。

推定生息数は数万頭とも10万頭ともいわれ明確ではありませんが、その数は減っていると考えられています。

ヤブイヌはなぜ減少しているの?

  • 生息地破壊 … 大規模農園化により草原や森林が分断されている
  • 獲物の不足 … 密猟者や飼い犬がヤブイヌの獲物となる動物を狩っている
  • イヌの病気 … 飼い犬(狩猟犬)から病気をもらう危険性がましている

ヤブイヌの数はパラグアイとベネズエラで減少。その他の国々は不明もしくは安定傾向と報告されています。

しかし、生息地の分断がすすんでいること、密猟によって獲物が不足していること、飼い犬等から病気をうつされていることから、ヤブイヌは減少傾向にあるといわれています。

自然が失われているから

ヤブイヌをふくむ多くの動物が暮らす自然はヒトにより牧場や農場にかえられています。

かつての住みかを追われたり、道路やフェンスにはばまれ移動できなくなったり。自由なはずの野生動物たちの生活が制限されています。

飼い犬がヤブイヌの獲物を狩るから

自然とヒトとの境がちかくなったことは、ヤブイヌをさらなる危機へ追いやっています。

とくに問題となっているのは飼い犬がヤブイヌとおなじ動物を食べ、ヤブイヌの獲物が減っていること。結果的にヤブイヌの減少につながっています。

飼い犬から病気がうつるから

また、飼い犬はさまざまな病原体を持っています。

それらをヤブイヌがもらい、最終的に群れ全員を死亡させることがあります。短期間で群れの大多数が亡くなることから、ヤブイヌは病気の影響をうけやすいといわれています。

人口増加にともない狩猟犬による狩りもふえ、ヤブイヌがイヌの病気に感染するリスクが高まっています。

平川動物公園 ヤブイヌ 鳴

ヤブイヌの国際取引はきびしく規制されています

ヤブイヌはワシントン条約によって学術目的以外の輸出入は禁止されています。

一方でブラジルやアルゼンチン等一部の国では制限はあるものの、狩り・取引がおこなわれている状況です。

日本の動物園にいるヤブイヌは繁殖を目的として海外の動物園から導入された個体とその子孫です。

ヤブイヌを飼育している動物園【6か所】

2023年5月現在、6つの動物園で14頭のヤブイヌが飼育されています。

  • 埼玉県こども動物自然公園
  • よこはま動物園ズーラシア
  • 京都市動物園
  • 神戸どうぶつ王国
  • 高知県立のいち動物公園
  • 平川動物公園

名古屋市にヤブイヌはいません

かつてヤブイヌ繁殖にも成功している名古屋市・東山動植物園。

2019年に「キナコ」2022年2月に「アンコ」が亡くなりました。

現在、東山動植物園にヤブイヌはいません。

国内最高齢ヤブイヌは?

つい最近まで横浜市・ズーラシアのヤブイヌ飼育数は国内最多の6頭でした。

そして国内最高齢ヤブイヌとして2009年生まれのオス「フキ」を飼育していました。

しかし、2023年にはいり高齢となったズーラシアのヤブイヌ3頭(フキ、マロ、やす)が相次いで亡くなりました。それぞれ13歳、12歳、13歳でした。

ヤブイヌの寿命は飼育下で10年ほど。3頭とも天寿を全うしてくれたのだと思います。

2023年5月現在、国内最高齢のヤブイヌは2011年1月生まれのメス「ハンナ」先日亡くなった「やす」「マロ」のきょうだいです。おなじくズーラシアで飼育されています。

オスのヤブイヌの最高齢は2011年9月生まれの「デンマル」京都市動物園でひとり暮らししています。

ヤブイヌに会える動物園がふえています!

2015年以降、4つの動物園でヤブイヌの飼育がはじまっています。

  • 埼玉こども動物自然公園(2015年~)
  • 神戸どうぶつ王国(2019年~)
  • のいち動物公園(2021年~)
  • 平川動物公園(2015年~)

2020年からヤブイヌのペアリングをはじめた神戸どうぶつ王国では、2021年、2022年と繁殖に成功しています。

また、高知県・のいち動物公園と鹿児島市・平川動物公園では繁殖に期待がよせられています。

神戸で2年連続赤ちゃん誕生!2022年

2019年からヤブイヌ飼育をはじめた兵庫県・神戸どうぶつ王国。

2020年には京都市動物園よりメス「カリカ」が来園し「ノリマル」とのペアリングに挑んでいます。

2頭の相性はよく見事繁殖に成功!

2021年には「カノン」「フクマル」2022年には「コラン」「ヒロマル」が生まれました。

初産の子どもたちは衰弱の危険があったため人工哺育となりました。カリカ自身が人工哺育で育ったため、子の扱いがわかなかったのかもしれません。

しかし、2回目に生まれた子どもたちはカリカとノリマルの愛情をうけて、すくすく成長しています。

おとなになったカノンとフクマルはそれぞれズーラシア、埼玉県こども動物自然公園へと旅立っています。

2023年5月現在、神戸どうぶつ王国は父「ノリマル」母「カリカ」子「コラン」「ヒロマル」計4頭のヤブイヌを飼育しています。

日本の動物園にいるヤブイヌの歴史

2004年ガイアナ共和国より横浜市・ズーラシアにやってきた「コタロウ」と「コウメ」生涯に25頭の子が生まれました。

ズーラシアは現在も日本最多の6頭のヤブイヌを飼育しています。

コタロウとコウメの子「コモモ」と「ケンタ」そして「ベニ」と「ナン」がそれぞれ京都市動物園、名古屋市・東山動植物園へ移動。繁殖に成功しました。

飼育数がすくないため近親交配という苦渋の決断でしたが、この2組のペアは日本のヤブイヌをふやしてくれました。

遺伝子が似たもの同士の繁殖という危険をおかしつつ、ヤブイヌを飼育しつづけてきた日本の動物園。

2016年京都市動物園でついにあらたな血統が生まれる!

母親は2015年にイギリスからやってきた「パパヤ」父親は2014年にデンマークからやってきた「デンマル」です。

2頭のあいだには6頭の子が成育しました。

  • 2016年2月
    • パパマル
  • 2016年9月
    • カツマル
    • ノリマル
    • マドカ
    • ミコト
  • 2019年11月
    • カリカ

ざんねんながら2019年、パパヤは3回目の出産で死亡。この時点で京都市動物園でのヤブイヌ繁殖がとまっています。

2021年・2022年兵庫県・神戸どうぶつ王国で繁殖に成功!

母親は2019年生まれの「カリカ」父親は2016年生まれの「ノリマル」つまりどちらもパパヤとデンマルの子(きょうだい同士)です。

  • 2021年8月
    • カノン
    • フクマル
  • 2022年1月
    • コラン
    • ヒロマル

近親交配で生まれた子は病気や障害をかかえる傾向があります。そのため、一般に自然界でも飼育下でも避けられています。

ところが、現存する日本のヤブイヌたちのおおくは血縁関係にあります。動物園は飼育をつづけるために、きょうだいを繁殖させることを選びました。

もともと10年ほどしか生きないヤブイヌ。

もしも近親交配で生まれたヤブイヌが早逝してしまったら…日本のヤブイヌがいなくなる日はそう遠くないかもしれません。

京都市動物園 ヤブイヌ

繁殖をめざす動物園とヤブイヌたち

日本の動物園にいるヤブイヌのうち、ケンタ・コモモの子孫が4頭。デンマル・パパヤの子孫が10頭。血統のかたよりがヤブイヌ繁殖をおいつめています。

そんな日本の動物園にいるヤブイヌの未来は2ペアのゆくえにかかっています!

のいち動物公園|スマイラーとカツマル

高知県・のいち動物公園は2021年よりヤブイヌのオス「カツマル」の飼育をはじめました。そして2022年にはズーラシアよりメス「スマイラー」が来園。

スマイラーは2015年イギリス生まれ、2019年に横浜市・ズーラシアにやってきました。

カツマルの兄「パパマル」とのペアリングがうまくいかなかったのか、ブリーディングローンにより高知へ移動となりました。

スマイラーは日本のヤブイヌと血縁のない、とても貴重なメスです。動物園としては何としても子どもを生んでほしいヤブイヌです。

カツマルとスマイラーの相性はわるくないようす。あたらしい命が誕生する日が待ち遠しいですね。

平川動物公園|マドカとサキョウ

鹿児島市・平川動物公園は2015年からヤブイヌ飼育をはじめました。

まずオスのきょうだい「ウキョウ」「サキョウ」が来園。2019年にメス「マドカ」がやってきました。

とっても仲の良いきょうだいでしたが、ウキョウはマドカ来園翌月に亡くなってしまいました。

それからサキョウとマドカのペアリングがはじまりました。

しかしながら結果は失敗。マドカが噛みついてしまい、以降2頭の距離は離れたまま2年のときが過ぎました。

長きにわたる訓練のおかげで、いまでは2頭は同居し交尾も確認されています。

ただこの2年で、5歳だったサキョウは7歳になりました。寿命を10年とすると決して若くはありません。

サキョウとマドカにのこされた時間はわずか。うまくゆくことを祈るばかりです。

平川動物公園 サキョウとマドカ ヤブイヌ

[広告]不要なものは買わないことが一番。必需品は売上の一部が寄付されるような商品を選ぶことで、自然や動物またはヒトをまもる活動につなげることができます。

ヤブイヌの生態と特徴まとめ

  • 生息地 南米大陸の水辺にちかい森林・草原など
  • 生息数 不明(減少傾向)
  • 見た目 赤褐色 胴長 ずっしり
  • 暮らし 群れも単独もいる
        昼も夜も活発
        肉食(アルマジロやネズミのなかま等)
        飼育下10年以上生きる
  • 特技  水泳 穴掘り

イヌというよりイタチのような見た目の「ヤブイヌ」よく動きよく鳴きよく食べる元気な動物です。

おもに南アメリカに生息するヤブイヌですが、その姿を見たことがあるヒトは稀。

開拓がすすめられている近代、ヤブイヌの生息数は減少傾向。将来、絶滅のおそれがある動物(IUCNレッドリスト準絶滅危惧)です。

とはいえ調査が非常にむずかしいヤブイヌ。実際にはすでに絶滅の危機にひんしているかもしれません。

そんなめずらしい動物「ヤブイヌ」かつては3園ほどでしたが2022年12月現在、6つの動物園で会うことができます。

ヤブイヌはワシントン条約により国際取引が規制されているため、今後あらたな個体が導入されるかはわかりません。

寿命が10年ほどと短いヤブイヌ。いまの状態では動物園からすがたを消す日が必ずやってきます。

ぜひ可愛らしく活発なヤブイヌに会いに行ってみてください。

平川動物公園 ヤブイヌ 寝

以上、ヤブイヌのお話でした。

【参考】

国際自然保護連合

日本動物園水族館協会